韓国での生活も7年目という日本政府観光局(JNTO)の谷博子所長。谷所長の1日のスケジュールは、人に会う約束でいっぱいだ。それもそのはず。所長の仕事は日本の観光を隅々までアピールすること。だが、どんなに忙しくてもグルメの楽しみだけは外せない。
韓国で楽しむ一風変わった味の宴
谷所長は韓国へ来る前、米ニューヨークで6年間勤務した。東洋と西洋の大きな違いを実感していたので、別の文化圏に対しても受け入れ姿勢ができており、自然に生活できた。だから韓国勤務が決まった時、「日本ととても近くて交流が多い国」という認識があり、文化的な違いはほとんどないと思っていたとか。ところが、実際に来てみると、韓国の「パリパリ(早く、早く)文化」に慣れるのは難しかったそうだ。「ミリミリ(あらかじめ)」という一言で日本人の性格を表現してくれた谷所長。所長が教えてくれたおもしろエピソードを紹介したい。
副菜にも一つ一つ値段が決まっている日本と違い、品数豊富な副菜がタダで、おかわりもOKという韓国料理店の人情にビックリしたそうだ。食べ物を残してはいけないと教えられてきたので、谷所長は副菜を全部きれいに平らげようと頑張り、メーンのカルビタンが出てくるころにはおなかがいっぱいになっていたという。また、チゲなどの鍋料理を食べるときは一つの鍋をみんなでつついて食べると親しくなるという韓国の食習慣をよく知らなかった。一人ずつ取り皿に取り分ける日本の食習慣と比べると正反対だ。その一方で、韓国に来たら一番体験してみたかったというのが「オンドル(床暖房)」。「韓国のことは“オンドルの国”と呼ぶべき」と思っているほど、オンドルのファンになった。思いも寄らなかったオンドルの構造や作りに以前から大変関心を持ち、とても楽しみにしていた。そして期待通り、オンドル部屋に寝転がってのんびりするのは、ポカポカで心地よかった。
初めて谷所長のオフィスに入った時、真っ先に目に入ったのは、山のように積まれた書類や本、そして窓際にたくさん置かれている日本からの小物だった。ミッキーマウスをはじめとするぬいぐるみや置物などはてすべて、谷所長を訪れた来客・同僚・仲間たちからのプレゼント。会いに来た理由はさまざまだが、わざわざやって来た同僚や仲間たちと望むことといえば、ほかでもない、おいしい料理と楽しい話、そしてワインやカクテル、ビールを共にするひとときだ。
「日本でも韓国料理はわりと簡単に食べられます。もちろん、ほかの国の料理も同じですが、韓国で楽しむ外国料理はまた一味違うような気がします。梨泰院(ソウル市竜山区)にあるハミルトン・ホテル地下の汗蒸幕(ハンジュンマク=韓国サウナ)で疲れを取ってから、梨泰院のゲコス・ガーデンに行って、冷たいビールを一杯飲んだらサイコー!って感じですよ」
谷所長はこのように、韓国を訪れる日本人に韓国料理ではなくイタリア料理を、焼酎やマッコリではなくワインやビールを勧める。
ソウル市鍾路区三清洞の街並みをこよなく愛する谷所長。三清洞につながる散歩道の入口辺りに並ぶ数々のブティックも絶賛している。この道を歩いていくと、まるで自分の家のようにリラックスできる「ロマネコンティ」が見えてくる。ここは、谷所長が韓国に赴任して間もないころからの行きつけの店。仕事帰りに夜風にあたりながらワインを1杯を飲めば、積もり積もったストレスも一気に吹き飛ぶという。
「日本から誰かが来ると、必ずこの店に連れて来てワインを飲みます。三清洞でしか味わえない伝統的な韓屋(韓国風の家)の趣や、香り豊かなワインを紹介するんです。もう7年も通ってますから、自分の家のようにリラックスできます」
韓国で長く暮らしているからか、谷所長のお勧めコースはほとんどがソウルではなく地方だ。『冬のソナタ』であまりにも有名な南怡島(江原道春川市)や、江華島にある伝灯寺や摩尼山(仁川市江華郡)などを挙げた。谷所長は今年の夏休みを済州島で過ごす。仕事で忙しいが、折を見てぜひ行きたかったと教えてくれた。
日本政府観光局(JNTO)
1964年に設立された日本政府観光局(Japan National Tourism Organization:JNTO)は、観光を通じ国際交流発展に貢献するため、各国でさまざまな活動を展開している。また、日本国内の観光事業の発展を促進するための活動や、日本を訪れる観光客誘致活動に積極的に取り組み、外国人観光客のための旅行客案内センター(TIC)の運営・観光客誘致施設の一括管理・国際会議や貿易展示会などの誘致を行っている。ソウルのほか、世界各国の主要都市13カ所に事務所を構えている。
*アクセス=地下鉄2号線市庁駅5番出口
*住所=ソウル市中区乙支路1街188-3番 プレジデント・ホテル2階
*Tel=02-777-8542
*利用時間=平日9時30分-12時、13時-17時30分
*ホームページ=www.welcometojapan.or.kr
文=オ・スンヘ 写真=キム・チュンホ