名前は素朴でも味はゴージャス、 ジョン食堂


 シェフの名前を掲げたレストランに限って、満足できる味の店はむしろ少ないもの。そのため今年2月にイム・ジョンシクさんがオープンしたソウル市江南区新沙洞の「ジョン食堂」にもそれほど大きな期待はしていなかった。創意的でもどこか物足りなかったり、飾りばかり華やかで基本技が足りなかったりする店が多いからだ。

 店名は純朴な雰囲気漂う「ジョン食堂」。メニューはランチコース(5品)、ディナーコース(9品)のセットメニューのみ。ランチには「ジョン食堂1stランチメニュー」、ディナーには「ジョン食堂2ndジャスト・ドゥー・イット・ディナーメニュー」という名前が付けられていた。まるでアルバムのような名前…シェフは歌手なのか。イム・ジョンシクさんは「メニューが2カ月ごとに変わり、変わるたびに一連番号が付く」と説明した。メニューの一番最後にはイムさんを含め、料理を作るシェフやウエイター、ウエイトレスの名前まで書かれている。「生産者実名制」のランチとディナーを味わってみた。

 洋食レストランだが、韓国の季節の野菜を使用するという哲学が料理の名前にもよく表れている。ランチのメイン料理「五感満足豚ポッサム(豚肉をキムチなどで包んで食べる料理)」は、青菜の上にタマネギのピューレ入りのマッシュポテトを敷き詰め、低温で長時間火を通した柔らかい豚のばら肉を乗せたところに、辛いトウガラシの醤油漬けと甘い干しブドウのジャムが添えられている。甘酸っぱくてピリ辛、柔らかくてサクサクした舌ざわりが口の中一杯に広がる。

 ディナーメニューに含まれている「高麗人参畑」は、香ばしくて柔らかいフォアグラのムースを畑に、ピスタチオの粉を苔に見立て、砂糖漬けの高麗人参を植えて人参の畑を作ったもの。「エビのスープ」はエビの殻でだしを取っており、刻んだナズナのいい香りが漂う。青陽トウガラシとタピオカを加えた「アンコウの辛鍋」はスープが緑色で、真っ赤な韓国の辛鍋とはまったく違った料理のように見えるが、すいとんが入っており、味は韓国の辛鍋と同じ。金髪の西洋の女性が突然、韓国伝統の国楽を歌い始めたのを聞いた気分。予想外の衝撃だ。

 「ジャージャーめん-ジョン食堂スタイル」は、中華鍋で強火で炒めたワカメソースとたくあん風の大根ピクルス、イカを使っているが、確かにジャージャーめんの味がする。参鶏湯(サムゲタン=若鶏の腹にもち米・高麗ニンジン・ナツメなどを詰め煮込んだスープ)をベトナム風にアレンジした「ハノイ参鶏湯」は、リゾットの上に鶏のささ身ロールを乗せ、フォー(ベトナムの平打ち米粉めん)のスープをかけた。レモンと塩の風味が溶け込んだスープの香りが鼻をくすぐる。デザートのアイスクリームには漢方薬のトウキ(セリ科の多年草)を使い、程よい甘さを出している。山菜入りのパンは、山菜を使ったという点だけでも新鮮だが、味も街のパン屋に負けないほど美味しい。

 韓国料理を西洋風にアレンジした料理は既に幾つかのレストランで食べたことがある。しかし、ジョン食堂の試みは完成度が高い。奇抜でありながら、中途半端ないたずらのような感じがしない。基本がしっかりしているからだ。前菜、メイン、デザートなど、メニューの構成や調理方法に気を配った後が味ににじみ出ている。

 オープンキッチンの中で食器を洗う音がうるさいことが、唯一の短所といえば短所だ。アイドルグループにも負けないような熱烈ファンによって、間もなくファンクラブが誕生しそうだ。

◆ジョン食堂:星四つ(五つが満点)

住所:ソウル市江南区新沙洞567-28(東湖大橋南端、映画館CGVの向かいにある国民銀行の横道を入る)

営業時間:ランチ=正午-午後2時30分、ディナー=午後6時-10時、日曜日は午前11時-午後2時30分まで営業。月曜日は休業。

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