おいしいマン? おいしい男? 映画『おいしいマン』はそのタイトルからして、未成年観覧禁止かと思った。その上、主人公はイ・ミンギ。『浮気日和』でキム・ヘスと浮気をしていた、あのちょっと間抜けな姿の再演かと思った。この映画の中にも、そんな危ういシーンがないわけではない。チョン・ユミと飲み明かした翌朝、一人でパンツ姿で部屋の中をほじくり返すシーンを見たときは、陰険な男の物語のような気もした。
しかし、この映画の中心となるロマンスの背景となったのは、雪の降る北海道。脱ぐどころか何枚も重ね着していた。そしてイ・ミンギの相手役はキム・ヘスのような成熟した女性ではなく、『ジョゼと虎と魚たち』で清純ながら明るい女の子を演じ、観客を泣かせ、そして笑わせた池脇千鶴。可愛らしいイメージのこの女性と、どこか抜けているようなイ・ミンギの組み合わせはぴったりだった。言葉が通じないため、やむを得ず話す慣れない英語が、この二人にはとてもよく似合っている。主人公の会話が文章で続かない韓日合作映画は、これまでなかったのではないか。
しかし、だからこそ現実的だ。誰もが1度は経験するような出来事。最近でこそ子どものころから英語を習い、簡単な意思の疎通ならできる人も多くなってきたが、みんながみんな英才というわけでもあるまい。一時はかなり人気があったが、スランプに陥り耳まで痛め、田舎の歌の講師に成り下がった元ミュージシャンのヒョンソク(イ・ミンギ)は、誰もが自分のことを馬鹿にしているような気がして一人で悩み傷ついていく、よくいる映画の主人公だ。「傷ついた魂」とでも言おうか。
そのような状況から抜け出すために訪れた北海道。旅行ガイドのメグミ(池脇千鶴)は、最初からヒョンソクに関心を示していた。話しかけても返事をしないヒョンソクに、「何格好つけてんのかしら」と一人つぶやくが、これは女性たちが負け惜しみでよく口にする言葉だ。そしてヒョンソクはメグミが営む旅館に泊まることになり、「料理もできず田舎者で大酒飲み」のメグミと一緒に過ごすようになる。言葉は通じなくてもこの二人にとって、いや人間には言葉が必要のないときがある。それは「食事中」。ヒョンソクが得意料理の「醤油ビビンバ」をメグミに作ってあげると、二人は同じ単語を同時に口にする。「美味しい」、そして「マシッタ(美味しいという意味の韓国語)」と。
斬新なストーリーでもなく、だからといって内容が優れた作品でもない。しかし、どこか一人旅に出れば、ヒョンソクのように心の整理ができるのではないか…。自分の中の何かと和解できるなら、もっと出かけたくなるのではないか…と思う。
この世に一人ぼっちだと思っていたとき、履歴書に貼る写真の裏にのりの代わりに使っていたご飯つぶが、いつの間にか悲しい人生を慰める「つまみ」になり、誰かと心を分かち合う意思の疎通の対象になる。そんなとき、「食事」がまったく違うものに見えてくるはずだ。いずれにしても、外国で温かい「食事」を一緒に食べてくれる誰かがいたら、もっと幸せだと思う。そこのあなた、一緒に食事でもいかがですか。