◆複雑なキャラクターに対する期待、そしてときめき
チュ・ジンモがこの作品で演じた王は、元の抑圧から高麗の主権を守ろうとする人物であり、自分の護衛武士を務めるホンリム(チョ・インソン)を愛する役だ。チュ・ジンモは王の複合的で多重的な性格が気に入ったという。王のキャラクターは、チュ・ジンモがずっと求めてきた立体的な人物だったというわけだ。
「単線的なキャラクターから卒業したいと思っていました。実際、これまで演じてきた役はある程度典型的な場合が多かったからです。型にはまったキャラクターではなく、ハムレットやリア王のように複雑で内面の葛藤が鋭い人物を演じてみたいと思っていたところ、そういう作品がついに僕のもとにやって来たのです」
そういった面で、同作品の王はチュ・ジンモの期待を100%満たしてくれると同時に、挑戦に対するときめきを与えてくれた。この王は国事を司らなければならず、元の国に取り入る敵を排除しなければならなかった。そして元の国の姫でありながら、高麗の王の妻になった王妃(ソン・ジヒョ)の心を受け入れてはならず、自分の心と体を女性ではなく男性に与える同性愛者でなければならなかった。
「監督を信じました。王というキャラクターについて監督と納得がいくまで話をしました。僕だけではなく、ホンリム役を演じたチョ・インソン君とも、暇さえあれば感情移入について語り合いました」
チュ・ジンモは同作品が公開されるまでの10カ月間を高麗の王として過ごした。この期間、大好きな酒もやめた。酒を飲むと、キャラクターに対する緊張の糸が緩むのではないかと思ったからだ。演技に対するプレッシャーのために白髪が生えたほど、心も体も疲れ切ったという。しかし時間がたち、体がつらくなるほど、俳優としての喜びと快感は大きくなった。
チョ・インソンとの同性愛のシーンなども、王のキャラクターの中にあったためやりやすかった。ある瞬間、高麗の王と実際の自分との境界がなくなるのを感じた。ユ・ハ監督はチュ・ジンモのその瞬間を待ち、そんなチュ・ジンモの瞳をクローズアップした。映画公開後、チュ・ジンモの演技が『霜花店』のバランスを取ったと評価されたのもこのためだ。
インタビューの最後に、「以前とは違い、A級のシナリオが入ってくるようになった理由は何だと思うか」と尋ねた。やや意地悪な質問だったかもしれない。
それまでスラスラと話していたチュ・ジンモは、この質問を受けると困ったような表情で、何度も「そうですねえ」と言った。もっと具体的に話してほしいと催促すると、「『カンナさん大成功です!』と『愛』で観客の皆さんが認めてくれたからではないですか」と照れてみせた。答えが物足りなかったためもう一つ意地悪な質問をしてみた。
「それでは、これからはA級のシナリオの作品だけに出演するのか」
チュ・ジンモはこの質問にこう答えた。「『霜花店』の後、全然シナリオが入ってこないんですよ。だから当分の間は休もうかなと。
まだ何の計画もありません」