ドラマ『彼らが住む世界』(KBS第2)は「二律背反(二つの推論が矛盾していること)」的な作品だ。華やかなテレビや芸能界の様子を描いていながらも、焦点を当てているのは俳優やプロデューサー、作家たちの「私たちと同じような人生」だからだ。ドラマのプロデューサー、ジオ役を演じているヒョンビンが最近、「演技がうまくなった」と視聴者から好評を集めているのは、そのような独特な作品の性格によく溶け込んでいるからだ。
ヒョンビンは表情や声、身振りで平凡な韓国の男性の雰囲気を十分に生かし、華やかな青春スターの面影をきれいに消している。「周りによくいるような韓国の20‐30代の男性になりたかった。目立ってはいけない人物なので」
11月17日午後、ソウル市江南区ノンヒョン洞の事務所でヒョンビンに会った。実物もドラマの中のジオのように普通の青年だった。「毎回台本を受け取るたびに、『こりゃ、また死にそうだ』と思う」と言いながら、頭を抱えてニッコリ笑う。含みがあって細かいセリフの多いノ・ヒギョン氏の脚本は大変だ、と大げさに苦しんで見せているようだ。
「たった1行のセリフの中でも、いろいろな感情を同時に表現しなければならない。状況とセリフがマッチしていないこともよくあります。男らしいセリフなのに目には涙がたまっている…そんな感じ。決められたラインをよく守らなければならない。超えてもいけないし、足りなくてもいけない。今は大変で死にそうだけれど、このドラマを終えたら何かが変わっている自分を発見できるような気がする」
ヒョンビンは少なくともテレビでは一歩一歩確実に俳優への道を歩んできた。ヒットメーカーの脚本家たちに選ばれることも多かった。イン・ジョンオク氏(MBC『アイルランド』)、キム・ドウ氏(MBC『私の名前はキム・サムスン』)に続き、ノ・ヒギョン氏まで。ヒョンビンは「『アイルランド』は特に大変だった。後半になるほど難しくなり、『僕は今、何をしているんだろう』と思ったほど」と話す。
視聴率50%を超えたドラマ『私の名前はキム・サムスン』はそんなヒョンビンの出世作だ。「真面目な俳優でありながら歓迎される芸能人」になりたいと話すヒョンビンだが、「あんな視聴率を出せるドラマにはもう二度とめぐり会えないことをよく分かっている」と話す。「無理にそういうドラマを探そうとは思わない。今出演している『彼らが住む世界』も、視聴率は少し低いけれど(5%)、気にしていない」。
『私の名前はキム・サムスン』シンドロームの主役はキム・ソナさんじゃなかったかと聞くと、ヒョンビンは「当然、あのドラマはサムスンのドラマだった。僕がサムスンを押しのけようとしたなら、きっといい結果は出なかったと思う」と笑顔で答えた。
ヒョンビンは『彼らの住む世界』でソン・ヘギョ(ジュニョン)と恋人同士を演じている。ヒョンビンは突然、「相手役の女性との壁がほかのドラマより早くなくなった」と話す。なぜだろうか。「このドラマでは1話の中に僕とヘギョさんのキスシーン、抱擁のシーンが2‐3回は出てくる。ほかのドラマでは作品が終わるまで、このような愛情表現のシーンは全部合わせても2‐3回程度しかないのに、それを毎回繰り返しているのだから、いやでも親しくなるよね」。
一時インターネットで騒がれたソン・ヘギョの演技力に関する論争について聞いてみた。ヒョンビンは「どうしてそういう話が出てきたのか分からない。傷ついていたはずなのに、撮影現場ではそんな素振りを見せずに一生懸命頑張ってくれてありがたかった」と話した。
警察大学への進学を夢見ていたヒョンビンは、高校で演劇部に入ったことがきっかけとなって演技に魅了され、ソウル大学路で演劇の舞台からスタートした。街中でスカウトされ、突然スターになったというタイプではない。オーディションを経て出演した2002年の映画デビュー作『シャワー』では、食べるために片方の目を売るが、それすらあっけなく失ってしまうどん底人生を壮絶に演じ、08年釜山国際映画祭の閉幕作『私は幸せです』では誇大妄想症の患者を演じた。整った顔立ちに似合わない汚れ役も、ヒョンビンの演技人生の大きな軸といえるだろう。「経験してないことは全部やってみたい」と話すヒョンビンは、「二重人格者を演じるのはどうかと考えている」と今後の抱負を語った。