この日のソン・イルグクはすべての質問に対し、いつになく慎重に答えた。配役とドラマに対する自分の考えを整理したA4用紙数枚を両手にぎゅっと握っていたが、答えがなかなか出てこなかった。数秒から数十秒の間、じっと考えた後、一言ずつ慎重に答えた。冷や汗を流しながら「今日のインタビューはMBC(タレント)公開採用の試験のようです。どうしてこんなに頭の中が真っ白になるほど緊張するんだろう?」と言い、記者と一緒に笑った。撮影の真っ最中だったせいか、ソン・イルグクは既に無恤にどっぷりつかっていた。いつも戦場でよろいを着て刀を振り回していたのに、突然スーツを着てカメラのフラッシュを浴びたせいだろうか。ソン・イルグクは自分の考える無恤について語ろうと努力しているようだったが、思い通りにいかないように見えた。本人もそれがもどかしいようだった。
「朱蒙と無恤は英雄であるという点で似ているように見えます。僕も原作を読む前まではそういう風に思っていたため、最初はオファーを断りました。マネージャーが原作漫画を持ってきてくれたけれど、出演する気持ちはまったくなかったため、読んでみようとも思いませんでした。しかし勧められてその漫画を読んでみると、無恤は決して朱蒙のような人物ではないということが分かりました。むしろ正反対の人物だったのです」
ドラマ『朱蒙』(MBC)の出演が決定したときもかなり悩んだが、今回の作品への出演は、『朱蒙』のときの30倍以上悩んだという。原作漫画で作家のキム・ジンが「無恤はほかのどの王より孤独な王だ」と書いた部分に共感し、結局出演することにしたというソン・イルグク。
「朱蒙は自分の欲しい物を一つずつ手に入れていく反面、無恤は進めば進むほど失ってしまいます。誰もが安心して生きていくことができる幸福な国を築くため努しますが、結局は愛する人すら守ることができず、一人ずつ見送らなければならない孤独な人物です」
インタビューの間中、「今回は人間の内面をしっかり表現したい」という言葉を繰り返し強調した。これまで出演してきた『海神-チャン・ボゴ』(KBS第2)『朱蒙』などの時代劇では矢を射ったり馬に乗るなど、外見的に英雄らしい姿を主に見せてきたとすれば、今回は人間としての苦悩を表現してみたいということだ。ソン・イルグクはそれが簡単なことではなく、厳しい試みであることを知っていると話した。しかし「今回こそ演技をしっかり学べる機会」とし、これに堂々を立ち向かうつもりだという。
「時代劇ができるということは、俳優にとって特恵のようなものだと思います。まず、時代劇は誰でもできるものではありません。20キロ以上はあるよろいを着なければならず、よろいを着ない時でも最低3-4枚の服を着て、ひげを付けたり、徹夜のロケも多いです。体力がなければ不可能だということです。そして演技の基本条件を満たさなければできません。僕は時代劇のオファーが入ってくるということに感謝し、そんな俳優であることを誇らしく思います」
結局、ソン・イルグクは「しっかり準備をしてきたのにその1%も話すことができませんでした」と残念そうに語り、席を立った。それはそうかもしれない。俳優ハン・ソッキュも言っていたように、俳優は体で語るものだから。ソン・イルグクの答えに物足りなさを感じたなら、これから静かにテレビに映る彼の演技を見ればいいということだ。