イルマが語る軍隊、家族、相婿クォン・サンウ(上)


 ソフトな男、イルマが強い父親になって帰ってきた。

 2年前、イルマの入隊宣言に多くの人々が仰天した。英国の市民権を捨て、韓国で軍隊に入隊すると発表したからだ。イルマはそんな男だ。外見は見るからに優しそうでソフトだが、真の強さを隠し持つ男。しかし韓国で家長として生きることは軍隊での生活よりもっとつらいという話には、心配そうな表情を隠せなかった。

 目が大きいからだろうか。イルマは人の顔をよく覚えている。約3年前にインタビューをしただけだったのに、すぐに「あのときの…」とあいさつをしてくれた。本当に頭のいい人だが、この記憶力は軍隊でもかなり役に立ったようだ。

 「幹部の顔は1度見ただけで覚えなければなりません。ほかの兵士たちはよく覚えられなくてかなり苦労していたようですが、僕は1度会えば忘れません」と自慢げに語った。そうだ。軍隊では記憶力さえよければほかの人より楽に過ごすことができる。もちろん、軍隊で経験する悪い記憶は早く消してしまうのが一番だが…。

 2006年7月10日、英国の市民権を捨てたイルマは、28歳という「高齢」で軍隊に入隊した。苦しい訓練所での生活と海軍軍楽隊、海軍広報団を経て、今年8月28日に除隊した。

 イルマは「正確に2年1カ月19日」と日数までしっかり記憶している。それだけ除隊の日を指折り数えて待っていたということだろう。それもそのはず。軍隊服務中に結婚式を挙げ、子どもまで産まれたのだから。赤ちゃんの世話は思ったより大変だというが、だからと言って軍隊には絶対に戻りたくないだろう。

-除隊してからやせたようだが…。

 「軍隊に行けば体が鍛えられると思ったのに、むしろ5キロ太りました。年を取ってから軍隊に行ったせいかもしれません。作業をするととても疲れるし、あまり眠らなくなりました。たくさんの行事に参加するため、食事の時間が一定していなかったのも原因の一つでしょう。とにかく少し老けてしまいました(笑)」

-軍隊にいる間、時間がたつのが早かった?

 「正確に2年1カ月19日軍隊にいました。知り合いからは『もう除隊なのか』とよく言われましたが、僕にとっては本当に長かったです。軍隊に行ってきた人ならこの気持ちがよく分かると思います」

-軍隊に行ったことで得たものは?

 「生涯経験せずに終わったかもしれない世界を知ったことです。入隊する前、地下鉄で一人の軍人が紙袋に荷物を入れて持っているのを見たことがありました。そのとき、その軍人がなんだかとてもかわいそうに見えたんです。惨めに見えたというか。ところがある日、自分もあの軍人と同じ格好をしているのに気づきました。苦しい毎日を送っているせいか、涙もろくもなりましたね。除隊する日、後任兵たちと別れるときも泣きそうになってしまって…。このような経験はアーティストにとってとても重要な刺激になります。内面的に成長できる時間でした」

 イルマは軍隊で海軍軍楽隊と広報団に所属した。軍楽隊はクラシックを専攻した人が多いが、広報団には芸能人やほかの分野の芸術家が多い。韓国にいる間、自分の専門以外の分野の人々と会う機会がなかったイルマにとって、このような人々との出会いはかなり大きな刺激になったという。

 そして一人ぼっちのように過ごしていた自分にとって、先輩や後輩ができたこともうれしかったという。韓国の芸能界には海軍広報団出身者がとても多い。春夏秋冬、TOYのユ・ヒヨル、キム・ゴンモ、チ・ソクチン、キム・ヨンマンらがイルマの先輩だ。

-2年以上の空白は音楽活動に致命的な打撃を与える可能性もあるが。

 「心配しなかったわけではないけれど、音楽的にはむしろ得るものが多かったような気がします。海軍広報団にいたときは、俳優やマジシャン、ほかの分野のミュージシャンまでさまざまなアーティストたちに会いました。軍隊に行かなければ生涯会うことのなかった人たちです。たくさんのことを分かち合い、感じることができました。また、僕は英国で長い間暮らしていたため、韓国には先輩・後輩と呼べる人がいなかったけれど、軍隊に行って初めてそういう存在ができました。以前は僕が先輩と呼ぶことのできなかった人たちが先輩になったのはとてもうれしいことです」

-ニューアルバムについて紹介してほしい。

 「新しいアルバムに収録されている曲はほとんど軍隊で作ったものです。軍歌の雰囲気ではなく、むしろ以前より叙情的なムードの曲が多いといえるでしょう。窓のない練習室、飾り気のない壁、妻が送ってくれた絵はがきを見ながら曲を書いたため、とても感情的になったようです。一人で自分だけの物語を作り、ピアノを弾きました。幼い子どもに戻るような気分というか…。軍隊というのはそういうところじゃないですか。大人が突然子どもになり、純粋になってしまう」

-音楽のカラーが変わったのか。

 「まだ変わったわけではないけれど、これから変わりたいと思っています。やってみたいこともたくさんあります。歌も作ってみたいし、大衆的な曲にも挑戦してみたい。先日、キム・ゴンモ先輩があるテレビ番組に出演し、アイドルグループ少女時代の伴奏をしている姿を見ましたが、とてもすてきでした。僕も東方神起やワンダーガールズ、少女時代などのアイドルグループと自由に演奏してみたいです。僕は演奏だけをする保守的なイメージが強いけれど、これからは大衆的なものも取り入れてみたいですね。世界的な音楽家の坂本龍一さんも以前、クリスマス特集の番組に出演し、アイドルグループSMAPの曲を演奏していましたが、当時、僕にはそれがとてもショックでした。“ああ、あの大家が…。でもあれが本当に音楽家だ。僕もああいう風にならなければ”と強く感じました」

チェ・グッテ記者

写真=シン・スンヒ

場所提供=アルペンシア・リゾート

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