ラブストーリー離れする韓国の視聴者たち


 韓国ドラマが数十年間執着してきた「ラブストーリー」から離れつつある。愛と別れ、不倫など、男女間の愛憎関係をテーマに「増殖」を繰り返してきたドラマたちが、新しい素材の発掘に目覚めている。

 各テレビ局が最も力を入れている平日夜のドラマで、最もその傾向が強い。最近の平日夜のドラマのうち、男女の恋物語を描いたドラマはKBS第2テレビの『恋愛結婚』しかない。『ベートーベンウィルス』 は音楽、『風の絵師』は美術、『いかさま師』は賭博、『神の天秤(てんびん)』は法曹界を集中的に描いている。また、『風の国』は『朱蒙』を連想させる線の太い時代劇、『エデンの東』は荒々しい男たちの世界に焦点を当てている。

 「医療ドラマは病院を舞台にした医師や看護師たちの恋愛ドラマ」といった、主に恋がテーマとなっていた韓国の専門職関連のドラマも変化している。3‐4年前まで「主人公たちの愛憎関係を描くための舞台」程度に登場していた職業の世界が、今ではドラマの中心となっている。むしろ登場人物の愛憎関係が職業の世界を興味深く描くための「隠し味」的な役割に格下げされている。

 『ベートーベンウィルス』でも視聴者たちは、トゥルミ、カン・マエ、カン・ゴヌの三角関係より、平凡な人たちがオーケストラの団員としてどのように小さな成功を積み重ねていくかということに注目している。ドラマは俳優たちの自然な演奏だけでなく、オーケストラの団員たちの日常、クラシック音楽や用語に関する常識まで具体的に説明している。

 同ドラマのソ・ヒテ芸術監督は「クラシック音楽の大衆的な自信を回復させることに最も力を入れている」と話す。『神の天秤(てんびん)』は、ぬれ衣を着せられた弟を救おうと検事になった兄の奮闘を描いたミステリースタイルのドラマだ。検事や弁護士など法曹人たちの生活を具体的に描き、男女間の愛情物語が割り込む隙間はほとんどない。


 視聴率調査専門機関TNSメディアコリアによると、2005年の平均視聴率トップ20位以内のドラマのうち、時代劇を除けば、男女間の恋物語に焦点を当てていないドラマは『英雄時代』(18位)しかなかった。『私の名前はキム・サムスン』(1位)、『バラ色の人生』(2位)、『春の日』(5位)、『プラハの恋人』(6位)、『快傑春香』(10位)などが、人気を集めた代表的なラブストーリードラマだ。

 06年の場合、時代劇以外のドラマで男女間の愛を描いていないものは一つも上位にランクインしなかった。しかし07年には、無慈悲なヤミ金融の世界を描いた社会性の強いドラマ『銭(ゼニ)の戦争』が平均視聴率31%で2位にランクインしたことにより、ラブストーリー以外のドラマもヒットし得るということを証明した。

 また、この年には男たちの権力関係を集中的に描いた独特な医療ドラマ『白い巨塔』が大ヒットした。この作品は男女間の愛を徹底して無視した、ほとんど初めての韓国ドラマといえる。『白い巨塔』と『銭の戦争』の成功が起爆剤となったのか、今年はラブストーリー以外のドラマがさらに増えた。08年の平均視聴率トップ20には『ベートーベンウィルス』『食客』『ニューハート』などがランクインし、人々の関心がこのようなドラマに集まっていることを示している。

 JSピクチャーズのイ・ジンソク代表は「過去には恋物語を描くための舞台に専門職の職場が利用されたが、最近は専門職の物語の中で潤滑油のように恋を使う方法が一般的になった」と説明する。『食客2』などのドラマを準備しているJSピクチャーズは、今後も専門職に焦点を当てたドラマに力を入れる方針だという。日本の漫画を原作としたドラマを制作するため、各制作会社が原作入手競争を繰り広げているのも、結局さまざまな素材を手に入れるための努力の一環であると解釈できる。

 専門家たちは、ここ数年間続いてきた米国ドラマブームの影響で韓国の視聴者たちがドラマの作品性を判断する基準が高くなり、ドラマの制作会社もこれに敏感に反応していると分析する。また、ロマンチックな恋物語を受け入れるには経済が悪化し過ぎているという意見もある。

 『白い巨塔』の脚本を書いたイ・ギウォンは「過去のラブストーリーは恋が最高だという価値観が根底にあるが、不景気の中で仕事探しに奔走する最近の若者たちを恋だけで納得させるのは難しいという側面もある。時代によって視聴者の好みも変わるもの」と話した。

チェ・スンヒョン記者
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