2008年のキム・ギドクは、「監督」よりも「制作者」として映画のエンディング・クレジットによく登場している。今年初めに開催されたベルリン映画祭パノラマ部門に進出したチョン・ジェフン監督の『美しい』、そして今年の秋夕(中秋節:今年は9月13日から15日まで)に公開され、1週間で65万人を動員したチャン・フン監督の『映画は映画だ』。この二人の監督はどちらもキム・ギドク監督の演出部で修行を積んだ弟子たちで、両作品ともキム・ギドク監督のシナリオとシノプシスを基にした作品だ。
今月16日夜、ソウル光化門の小劇場スポンジで「制作者キム・ギドク」に会った。キム・ギドク監督はまず、いくつかの前提を置いた。自分は二人(チョン・ジェフン監督、チャン・フン監督)の「後援者」であり「制作者」ではないと述べ、実際の制作者の役割についても、キム監督の下で長い間苦労をともにしてきた「ソン・ミョンチョル・プロデューサーとカン・ヨング・プロデューサーの力」と謙遜してみせた。低予算映画に対する偏見のため、このインタビューに応じるかどうかもしばらく迷ったというキム監督。「制作費が少ないというと、貧しい作家主義の映画や憂うつな映画を想像する観客たちの先入観のため、むしろ興行に悪影響を及ぼす」とキム監督は話す。しかし『映画は映画だ』が得た小さな成功を韓国映画界全体と共有したいという思いから、今回のインタビューに応じることにしたという。沈滞している韓国映画産業の対案、そして突破口になるようにという思いを込めて。
1000万人を動員する映画がたびたび登場するようになった韓国映画市場で65万人を動員(現在も上映中)したことがそれほどすごいのか、と反問するかもしれない。しかし『映画は映画だ』の事情を知ると話は違ってくる。キム監督はこれまで15億ウォン(約1億4000万円)とされてきた同作品の純制作費が、実は6億5000万ウォン(約5900万円)だったと初めて告白した。
昨年公開された韓国の商業映画の純制作費の平均(35億4000万ウォン=約3億2300万円)=映画振興委員会調べ=の5分の1にも満たない金額だ。実際、この程度の規模の制作費で制作された映画は10カ所ほどのスクリーンで公開されるのが常で、良くても10万人に満たない観客を集め、寂しく終わるというのが一般的だった。
しかし、お互いに似ていく俳優(カン・ジファン)とチンピラ(ソ・ジソブ)を素材にしたこの迫力ある男性映画は、最初の試写会を終えるや大衆性と作品性の高い作品だという評価を得て、公開当日から320のスクリーンで上映され、今週も『マンマ・ミーア』『 神機箭』に続き、前売り券の売り上げで3位を記録している。
もう一つ驚くべき点は、主演俳優のソ・ジソブとカン・ジファンが出演料を受け取らなかった上に、映画の制作費の35%を投資したということだ。キム監督は「俳優たちがギャラを受け取らず、興行に成功した後でインセンティブを手にするというケースがこれまでいくつかあったが、自ら投資するというケースは初めて。この映画は俳優やスタッフの献身的な参加により誕生した作品」と何度も強調した。また「秋夕連休中、この作品にたくさんの観客が集まるのを見て、今や(制作費や俳優たちの直接投資などを)正直に公表すべき時が来たと思った」と慎重に語った。
キム監督は一時、海外の反応とは裏腹に韓国で評価されなかった自身の映画を嘆きながら、人々に「偽悪」「自虐」 という言葉を投げつけたことがあった。しかし今やキム監督も40代後半という年齢に差し掛かり、自身の作品はもちろん、後輩や弟子たちの作品にも責任を取らなければならない先輩であり、師匠の立場になった。
キム監督は「チャン・フン監督は6‐7億ウォン(約5500‐6400万円)程度の費用でも観客の興味をそそり、面白く内容もある映画が作れることを証明した。莫大(ばくだい)な費用をかけようとする映画制作者やそのような映画ばかりを好む観客も、これをきっかけに考え方を変えてくれたらと思う」と語った。『映画は映画だ』が韓国映画の新しい突破口になってくれることを期待する制作者キム・ギドクの素朴な願いだ。
キム監督の門下で演出やプロデューサーデビューを夢見る後輩や弟子たちの集まりの名前は「突破口」だ。『サマリア』(2003年)以降に結成されたこの会のモットーは、「映画は費用ではなく心で撮るもの」。キム監督は10月に公開される『悲夢』まで16本の映画を手掛けてきたが、1度も9億ウォン(約8200万円)以上の制作費をかけたことがない。
『美しい』のチョン・ジェホン、『映画は映画だ』のチャン・フン監督もこの「突破口」出身だ。自分の路線がはっきりしており、意思が固い志望者だけを受け付けているという。実際、メンバーの中には雨に打たれながら2‐3日間キム監督を説得した末、やっとこの会に入った人もいるという。会員は現在15人程度。キム監督が期待する韓国映画の新しい突破口となる映画人たちだ。