「今しなければ、一生後悔するだろうと思いました」
「あえて俳優にならなくてもよかったのでは?」というインタビューでの最初の質問に対する答えだ。
俳優を職業としている人を見下しているから、こういう質問をしたわけではない。米国で生まれ、名門ボストン大学とジョージ・ワシントン大学院を卒業するまで、イ・フィリップはひたすら実業家への道を歩んできた。
父サイモン・リー氏は1986年にSTG社を設立、全世界に250以上の支社を持つ企業家だ。98年に米中小企業庁が選んだ「今年の人物」、2001年に全米アジア系商工会議所が選んだ「優秀企業家」でもある。
イ・フィリップも大学院卒業後、小さなIT企業の最高経営責任者(CEO)を務めるほど事業面で優れた能力を発揮してきた。
「演技は小さいころからやりたいと思っていました。事業は死ぬまでできますが、演技は“時期”があると思っていたので、迷わず選択しました」
運もあった。知人の紹介で人気演出家の金鍾学(キム・ジョンハク)プロデューサーと知り合い、野心作『太王四神記』に抜てきされたのだ。
「金プロデューサーがいなければ『太王四神記』はありませんでした。繊細で優しく、静かなカリスマ性の持ち主。僕が表現できない部分まで引き出す能力はすばらしいと思いました」
この2年半は、すべて『太王四神記』チョロ役のための準備期間だった。韓国語・韓国史・発音・発声・演技指導だけで1日24時間フル稼働だった。
「睡眠時間以外はいつも勉強の連続でした。友達から“おかしくなった”と言われたこともあります」。それが実を結んだのだろう。25年間英語だけで暮らしてきたイ・フィリップが、見事な韓国語でチョロ役を演じきった。
ハリウッドに進出したいという気持ちもある。「米国で生まれ育ったので、十分可能性はあると思います。ハリウッドでのアジア系に対する偏見にも不満があります。アジア系でも悪役や武道家ではなく、多様な演技ができるということを見せたいのです」
2年半もの間、休むことなく走り続けてきたため、しばらくオフを取る予定だ。もちろん、『太王四神記』のように優れた作品があれば、すぐにでも合流するつもりだという。チョロ役よりもさまざまな面を持つ役だったら、何も言うことはない。
イ・フィリップは突然考え込んだかと思うと、おそるおそる尋ねてきた。
「でも『太王四神記』のようにすごい作品ってまた出るでしょうか」