ZARDに見るアイドル性とアーティスト性の結合

【コラム】坂井泉水さんの死と韓国歌謡界(下)


 一方、ZARDという音楽ユニット自体の魅力や成功要因についても見直す必要がある。坂井泉水さんは「音楽ユニットZARDのボーカル」として紹介されているが、いつの時点からか、坂井さん自身がZARDそのものになった。実はユニットとして始まったが、4枚目のアルバム以降はユニットが解散し、坂井さんを中心としたプロジェクト・チームになっていた。作曲は専門家に依頼したが、作詞は坂井さん自身が手がけ、プロデュースや編曲にも全面的に参加していた。坂井さんは女性シンガー・ソングライターと呼ばれている。

 ここで注目すべきなのは、女性シンガー・ソングライターとしての坂井さんの位置付けだ。坂井さんは「美人シンガー・ソングライター」の草分けと呼ばれている。歌手デビュー前はグラビア・モデルやレース・クイーンとして活躍するほど、アイドルとしても通用していた坂井さんの美しさに、「シンガー・ソングライター」という一見何の関係もなさそうな肩書きが付いた。

 その結果は、ZARDのCD売り上げがはっきり示している。シングルCD1745万枚、アルバム1870万枚、計3615万枚を売り上げた。アイドルが得意とするシングルと、アーティストが得意とするアルバムの売り上げがほぼ同じなのだ。

 アイドル性とアーティスト的な位置付けの結合は、男性の関心と女性の憧れを同時に得て、超大型の新市場を開拓した。大塚愛やYUIといった、後に登場した女性シンガー・ソングライターたちは、皆ZARDの美人シンガー・ソングライター路線に沿ったものだ。

 もちろん、こうしたことに対する反発も少なくない。アーティストでさえ容姿で評価されるという現実は、ビジュアル時代の歪曲(わいきょく)された現象と言えよう。しかし、ZARDが切り開いたこの路線は、K‐POP界、特に瀕死の状態にある女性ミュージシャン市場にとって、新たなモデルになるのではないか。

 これまでのK‐POP界は、女性ミュージシャンにとってアイドルとアーティストの真っ二つに方向性が分かれていた。この両極端な市場分割が生んだのは、惨憺たる結果だけだった。アイドルとしてプロデュースされた歌手はビジュアルを強調する方向がセクシー路線だけに偏り、「シングルCDを出すごとに露出度が高まる」という戦略に没落した。基本的な歌唱力すらない歌手も続出している。アーティスト系列は音楽的な完成度とは関係なく、「容姿のせいで」実力派と呼ばれながらもだんだん質が下がり、どれも同じようなR&B的な歌い方になってしまった。結局、どちらも妙策にはならず、市場を潰してしまったのだ。

 前記のとおり、ZARDの美人シンガー・ソングライター路線は絶対的な妙策ではない。だが、崩壊寸前の音楽市場に「活(かつ)」を入れるきっかけにはなるだろう。市場の結合は単に1+1の効果ではなく、それ以上の相乗効果を生み出す可能性がある。拡大した市場はスムーズな市場の流れにつながり、スムーズな市場の流れはアイドル産業とアーティスト産業の間でバランスの取れた市場の住み分けにつながる可能性を持っている。

 つまり、坂井さんの死により高まった関心が韓国に本当に示しているのは、一人の美しい女性ミュージシャンを失ったというセンチメンタルな感傷ではなく、新たな市場、新たな概念としての「音楽商品路線」を開拓したシンボル的な人物に関する研究の必要性なのだ。

イ・ムンウォン(大衆文化評論家)

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