苦戦が続く2007年の映画界において、『優雅な世界』(4月5日公開)はまるでとっておきのプレゼントのように輝いている。ハン・ジェリム監督、ソン・ガンホ主演のこの映画は、才能ある若い監督と信頼の厚い中堅俳優が出会ったらどんな成果を上げられるかを示すモデルケースだ。特に、「暴力団」という職業を通じ、大韓民国の抑圧された一家の大黒柱、40代の男の生き様を体現したソン・ガンホの演技は、この作品の至宝だ。今年40歳、デビュー11年目の俳優は、インタビューの間ずっと「エヘヘヘッ」といたずらっ子のようによく笑っていた。本人は認めなかったが、俳優が満足感を得たときのしぐさのように見えた。
『優雅な世界』は青果問屋を営む一方で、「野犬組」の中堅幹部でもあるカン・イング(ソン・ガンホ)の生き様を描いた作品。子供たちの留学資金を貯め、水がジャージャー出るピカピカの新しい家に引っ越すため、他人に血の涙を流させるような男が主人公のブラックコメディーだ。ソン・ガンホはこの作品について「新しい文法を持つスタイルのフィルムノワール」と表現する。主人公はヤクザだが、この作品は、従来の暴力団コメディー物や、悲壮な美しさに満ちた犯罪映画を意味する正統派フィルムノワール(noirはフランス語で「黒い」の意)とは一線を画す。世間では板ばさみになり心労が絶えないが、家族からは尊敬される一家の大黒柱を夢見る、世の小心者のお父さんたち。その悲しい実像がこの作品の主人公だ。ソン・ガンホは「主人公のイングはヤクザではなく、普通の会社員だと思って演じた。映画の夫婦ゲンカのシーンを見た妻が“あなたが家でやっているのとまったく同じ”とクスクス笑っていたよ」と語った。
時に笑いを誘いながらも、薄汚い現実をいやらしいほど生き生きと表現するには、並大抵の実力では不可能だ。『恋愛の目的』などの作品があるハン・ジェリム監督は「こうしたストーリーは真面目すぎてしまったり、ややもすると新派の演劇のようになったりしてしまいがちだが、やはりソン・ガンホ先輩(ハン監督のほうが8歳年下)は絶妙なバランスで演じてくれた。この映画の主演は初めからソン・ガンホだった。他の人は考えたこともない」と話す。
実は、ソン・ガンホに演技力をうんぬんするのはとんでもないことだ。今もいたずらっ子のように大声で笑うこの俳優の意地悪な好奇心に火がついた。観客1300万人を動員したが、それほど彼の比重は大きくなかった前作『グエムル-漢江の怪物-』と、作品のほぼすべてが彼に依存している『優雅な世界』で、俳優ソン・ガンホの達成感はどれくらい違ったのだろうか。彼はずいぶん長い間悩んでから、「大きいとか小さいとかいう言葉で説明できることではないと思う。まかり間違えば誤解されてしまうだろう…」とつぶやき、さっと話題を変えた。「プレッシャー」についてだ。
『優雅な世界』では「監督・スタッフら全員の中で自分が一番年長者だった」と言う。一方『グエムル』はベテラン俳優のピョン・ヒボンと共演し、今や世界的な監督となったポン・ジュノ監督が長い間温めてきた作品なので、自分が心配しなければならないことはあまりなかった」と話す。彼は「『グエムル』でソン・ガンホが責任をとらなければならないことは10のうち1つだったのに対し、今回は私が作品の“顔”だというプレッシャーをとても強く感じた」と真顔で答えた。だが、もう1度「達成感」について質問すると、再び「エヘヘヘッ」という独特の笑顔でするりと逃げた。
ソン・ガンホは3年前から焼酎を飲むのを止めたという。よほどのことがない限り、飲むのはビールだけ。習慣のように吸っていたきついタバコも、今はニコチン含有量0.1ミリグラムのものだけを吸う。いつのまにか彼も健康に気を使わなければならない40代になったというわけだ。