ひとしきり夕立が降った後も、夜を迎えたソウル嘉会洞は相変らず蒸し暑かった。暑さのためなのか、それとも彼女の率直で苦悩に満ちた答えのためなのか、よく分からない。コ・ヒョンジョンに会ったのは、デビュー16年にして初の映画出演と、新しいテレビミニシリーズドラマ『キツネちゃん、何してるの』のためだったが、彼女は演技だけでなく、生き方についても一言一言、しっかりと自分の考えを語った。
―1989年のデビュー以来、映画は初めてだが、「映画女優コ・ヒョンジョン」の感想は?
「ドラマとは違うという話を周りからたくさん聞かされましたが、正直よく分かりません。演技自体は別に違いがありませんでした。ところが先週、『キツネちゃん、何してるの』の撮影が始まると、映画で自分がどれだけ全力を尽くしていたのか分かりました。ドラマの初カットは泣くシーンだったのですが、2~3時間も雰囲気作りをしてくれたのに泣けませんでした。泣くシーンにはそれなりに自信があったのに…」
―演技はともかく、システムに違いは?
「何というか、ドラマは自分の実家で、映画は夫の実家みたいな感じかな?映画はいろいろな人が礼儀正しく接してくれるけど、心をすぐに開いてはいけないような感じでした。ドラマはまだ計算も必要だけど気持ちがラク。映画は要求に容赦がありません。真剣勝負をしなければ、相手にしてくれないような感じでした」
―ホン・サンス監督の映画に出演した女優の中で一番のスターだが、「犠牲」になったといってもいいような出演料だったと言われている。
「俳優やスタッフがお金をきちんともらえば製作コストは軽く30億ウォン(約3億6000万円)を超える映画ですが、実際はその半分ぐらいで撮りました。“横になる場所の広さを見て、足を伸ばす(状況に合わせて行う)”というか、互いにベストの選択をしました」
―「スター」コ・ヒョンジョンに対する一般の人々の関心はプレッシャーになるのでは?インターネットの書き込みを見ると、応援というよりは傷ついてしまいそうな書き込みが多い。
「正直言って、私はそうした方々が関心を持ってくださることに感謝しています。芸能界に復帰すると言った時(2004年末)、それを伝えるネット記事の下には数百の書き込みがあったけれども、今はどんな記事が出てもその下の書き込みは8~9個(笑)。寂しいです」
―話題を今の生活についてのことに変えよう。彼氏にするとしたら、どんな人がいい?
(ちょっと悩んで)「格好ばかりつけていない人ならいいです」
―映画『浜辺の女』では「ひと晩だったらどうだって言うの」と叫ぶシンガーソングライター、ドラマ『キツネちゃん、何してるの』でも三流ピンク雑誌のセックスコラム書く記者の役。これまでの初々しくてすぐ涙を見せたコ・ヒョンジョンとはまったく違ったイメージだ。
「正直言って、上に着るものだけを変えたような感じがします。変わったのは設定だけです。『怖いもの知らずの愛』や『砂時計』でもあったイメージです」
―「女優はみな震え上がる」というホン・サンス監督の「安モーテルのベッドシーン」は心配しなかった?
「撮影前に私が監督に言いました。“服を脱がないというのではないし、力比べでもありません。単に脱いだかどうかだけに関心のある人々を、どうすれば粋にあっと言わせられるかが重要ではないですか?”と。あっと言わせられれば露出具合はどうでもよく、あっと言わせられないなら脱がないほうがいい、とおっしゃいました」
―最も達成感を感じた瞬間は?
「私も気付かなかったのですが、自分の演技に満足すると(表情を作ってみせながら)舌を使って頬を膨らませるそうです。その瞬間を監督が見て、教えてくれました。私のそんな癖が出た時と、監督のOKサインが同時に出たら幸せです」
―もう30代半ば。「今も20代と変わらない」と思える時と、「もう30代」と認める時は?
「男性に会う時はまだ20代のような気になります(笑)。30代は…すごく嫌だとか、すごくいいとか、そんな瞬間がだんだん少なくなります。後になって気付いたら、理解できないことはひとつもないような感じ。実はこういうおおざっぱな感情は嫌いなのですが、年を取ったんでしょうか。私は20代の時にとても大人すぎて、楽しみたかったものや、ほしかったものを全部我慢してしまいました。40代になった時に、こんな風に30代の頃を後悔したくありません」
―最近、「ヒョンジョン」という名前は財閥と結婚できるという冗談がある。ノ・ヒョンジョンKBSアナウンサーが現代グループ一族に嫁ぐというニュースを聞いた時、どう思った?
「(微笑んで)実は(バラエティ番組の)『想像プラス』を一生懸命見ていました。今回の映画のプロモーションでこの番組に出ることになるのかな?なんて思ってたんですが。残念です」
―サムスングループ一族に嫁いだ経験がある女性として、ノ・ヒョンジョンさんのような後輩に伝えたいことは?
「こんな話を信じてくださるか分かりませんが、その人(鄭溶鎮=チョン・ヨンジン=新世界デパート副社長)と結婚する時、財閥グループに関することはあまり考えませんでした。本当に、初めての真剣な恋愛で好きになったのです。私が芸能人で、その人がお金持ちであるために、問題が起きるとは思いませんでした。しかし実際に結婚生活をしてみると、二人だけですべてが解決できるわけではなかったんです。両家がつながりあう過程で、難しい問題が絶えず起きました。ノ・ヒョンジョンさんは私のようにはならないで、幸せになってほしいです。
」(コ・ヒョンジョンは鄭溶鎮副社長と2003年に離婚した)