韓国のホラー映画がグレードアップしている。今月28日公開の『阿娘(アラン)』を皮切りに7月『アパート』『ある日突然4週間の恐怖』、そして8月 『先生の恩』『シンデレラ』『伝説の故郷』『幽霊物語』まで、韓国ホラー映画のレベルが上がっている。「新人監督・新人俳優の実験現場」「低予算のにわか造り映画」という偏見を打ち破り、果敢な投資とレベルの高いキャスティングで完成度を高めるため努力している。2006年夏、厳しい観客の目を満足させるホラー映画が見つかるか楽しみだ。
1.低予算なんて昔話、完成度で勝負
ホラー映画は比較的、低コストなので新人監督の登竜門となってきた。20億~30億ウォン(マーケティング費用含む、約2億4000万円~3億6000万円)を投資して観客100万人を越えれば大ヒットだった。しかし今年は作品性で勝負するホラーが目立つ。『先生の恩』(42億ウォン=約5億円)『アパート』(40億ウォン=4億8000万円)『阿娘(アラン)』(40億ウォン)『シンデレラ』(36億ウォン=4億3000万円)など、韓国映画の平均制作費(45億ウォン=5億4000万円)に近い資金を投入している。
ホラー映画を次回作に選ぶ監督も増えた。『友引忌』(2000)『ボイス』(2002)を世に送り出したホラー専門監督、アン・ビョンギはカンプル原作のマンガを映画化した『アパート』で再びホラーの真髄を見せようと意気込む。『欲望 Lovers』『同床異夢』など恋愛専門の感があったポン・マンデ監督は 『シンデレラ』で彼の作品歴に新たなカラーを加えた。
『先生の恩』制作会社ファインワークス・ピクチャーズのムン・グミョン課長は「2000年以降、『ボイス』『箪笥』といった映画が作品性・興行性とも成功しスターを生み出したことから、ホラーも完成度を目指すという認識が広がっている」と話す。
2.小道具ではなく空間で恐怖演出
これまでの 『友引忌』『ボイス』『かつら』(2005)『赤い靴』(2005)などでは呪いが込められた‘小道具’が恐怖をもたらしたが、今年は限られた‘空間’に恐怖を押し込んだ映画が多い。『アパート』は現代人の日常的な生活空間で人が殺される内容で、『ある日突然4週間の恐怖』も高速道路の料金所や小さな事務室で起きる怪奇現象がモチーフだ。『シンデレラ』は整形外科医をしている母親とその娘の泊まった家が恐怖の震源地になり、『先生の恩』は小学校の同窓会が開かれた教師の別荘で凄惨な殺人事件が起きる。『阿娘(アラン)』は田舍の塩の倉庫が元凶となる。『アパート』制作会社アイエム・ピクチャーズのパク・ミンギョン課長は「小道具はストレートな恐怖の効果があるが、日常的な空間は静かに迫る心理的な恐怖を誘う」と説明する。
3.人気女優が主演
これまでのホラー映画は『女子高怪談』『コックリさん』のように10代の新人女優たちが何人も登場していたので、スター性よりもジャンルの特徴といえる‘恐怖’さえうまく表現できればよかった。しかし今年は違う。『アパート』のコ・ソヨン、『阿娘(アラン)』のソン・ユナ、『シンデレラ』のト・ジウォン、『先生の恩』のオ・ミヒ、ソ・ヨンヒなど、どれも映画やドラマで実績がある実力派女優が単独主演、またはダブル主演している。
特にコ・ソヨンは2002年『二重スパイ』以来4年の空白を経て選んだ作品にホラー映画を選び話題になった。「ジャンルの特徴がある映画に出たかった」というコ・ソヨンの言葉から、ホラーが映画関係者の間で人気ジャンルとして信頼されていることがうかがえる。 『阿娘(アラン)』の主演ソン・ユナも「軽いタッチのロマンチックコメディよりも完成度が高い台本に魅かれた」と話している。
4.恨み・復讐もグレードアップ
制作費やキャスティングはグレードアップしたが、テーマは相変わらず‘恨み’という感情に基づいている。「恨みを抱く死人の復讐」という韓国の古典的怪談の系譜を引き継いでいるわけだ。企画から「伝統ホラー」を目指した『阿娘(アラン)』は慶尚北道密陽に伝わる阿娘伝説をもとに恨みを抱く少女の復讐話を描いている。『幽霊物語』『伝説の故郷』はタイトルだけ見てもわかるとおり、死に装束を着た幽霊が出てくる。幽霊が出てこないケースでは、無念さを嘆く人の復讐が行われる。『先生の恩』は教師に傷つけられた生徒たちの復讐、『アパート』の殺人事件も誰かが抱いた恨みが原因であることが明らかになる。『阿娘(アラン)』制作会社ザ・ドリーム・アンド・ピクチャーズのマーケティングチーム長、チン・ミョンジュ氏は「韓国の観客は今もホラーといえば髪を長く垂らした幽霊を見たがる。無作為な殺りくを描いたスプラッタームービーや残忍な映画はあまり受け入れられない」と語ってくれた。