歌手の俳優進出、その背景には苦しい台所事情も


MBCドラマ『宮』のユン・ウネ、キム・ジョンフン

 歌手のドラマや映画進出は、現在それほど珍しいことではない。以前は、歌手が演技に挑戦すると「歌も中途半端なのに演技までやるのか?」と嫌味を言われたものだったが、今では「あの歌手はいつ演技を始めるんだろうか」と人々の期待を集めるようになった。

 現在、シットコム(シチュエーション・コメディー)が、本格的に俳優業に進出する歌手たちのレッスン場と化していると批判されているように、歌手たちはミニドラマやシットコムなどに一度出演した後、ドラマや映画に本格的に進出するという1つのパターンができあがっている。

 俳優デビューで、ステージ活動以上の成功を収めた歌手たちもいたが、反対に冷酷な現実に苦い思いをした者たちも数多くいた。しかし失敗を経験した歌手たちでも、再度演技に挑戦する道も残っているなど、歌手たちの俳優デビューはすでに芸能界での必須コースとなっている。

 このように歌手たちが演技の世界を目指す最も大きな理由は、歌手活動だけでは生活が苦しいという何ともやるせない現実があるからだ。

 SG WANNABEやSee Yaなどのトップ歌手を発掘したGM企画のキム・グァンス代表は最近、移動通信会社のデジタル音楽配信サービスから得られる収益のうち、歌手への利益配分が少なすぎると主張し、移動通信会社を相手に宣戦布告したことで知られる。キム代表は、こうした歌謡界の現状について「歌手たちがドラマに出演するのは、生活に不安を覚えてのことだ。国内で活動する歌手や音楽制作者の中で、生活に余裕があるのはほんの一握りだけ」とその危機的な状況を指摘した。

 現在、音楽アルバムのセールス10万枚は、34年前の100万枚よりも難しいとされ、発売されたアルバムのうち、損益分岐点を越えるものは5%もないという。このように歌手たちの収入が極めて不安定な状況にあり、また同じ芸能人の中でも俳優とは違って、CMなどの広告に出演する機会も非常に限られていることから、純粋に音楽だけに専念したいという気持ちはあってもままならない、現実的な問題を抱えている。

 歌手たちがこうした厳しい事情を抱える一方で、ドラマや映画の制作側は新しいテーマとフレッシュな人材を望んでいることから、両者の希望がうまく合致し、歌手たちの演技分野への進出が加速化している。

 今年MBCドラマでは、他局よりも積極的に歌手を採用したことから、歌手たちがドラマの主役をほぼ独占する形となった。1月から放送されたドラマ『宮』のユン・ウネとキム・ジョンフン、『オオカミ』のエリック、『愛は誰にも止められない』のホン・ギョンミンとイ・ヒョヌ、3月から放送された『君はどの星から来たの』のチョン・リョウォン、7月から放送予定の『オーバー・ザ・レインボウ』のファンヒ(Fly to the Sky)、4部作ミニシリーズの『彼女の脳出血ストーリー』のイジンなど、歌手が登場しないドラマは殆どないと言ってもよい。




MBC『オーバー・ザ・レインボウ』のファンヒと『ある素敵な日』のソン・ユリ

 これまでドラマ制作中の出演者事故など、様々なトラブルを抱えたMBCドラマは、復活への強力な武器として、歌手のキャスティングにより新鮮さを追求することでイメージ刷新をはかり、これがほぼ成功を収める形となった。歌手のドラマ登場は、演技力よりも視聴者たちの関心をまず引き付けることに大きな意味がある。加えて、歌手たちのバックを支える数万人規模のファンクラブ会員も強い味方となる。

 その他、最近ドラマでは歌やダンスのシーンが必須となっていることから、これを無難にこなせる歌手たちを起用することで得られるメリットは大きい。特に7月から放送される『オーバー・ザ・レインボウ』では、主なテーマと背景が音楽ステージにあることから、主人公を務めるファンヒの初の演技に期待がさらに集まっている。

 歌手・俳優・お笑いなどの各出身分野の境界がなくなる中、芸能界ではマルチな活動ができるエンターテイナーが求められるようになっている。これまで人々の非難や好奇心の対象だった歌手たちの俳優兼業は、今では当然の必須コースとなってきている。

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