4月29日午後の大統領府演武館。熱病のため8歳で知的成長が止まった障害者オム・キボンさん(40)がところどころ詰まりながら『黄色いシャツ』を歌った。演武館のスクリーンには80歳の老母に向かってオムさんの親孝行を描いた映画『裸足のキボン』が上映されていた。『黄色いシャツ』はこの「中年の少年」が母親のために洗濯しながら歌う愛唱歌。映画の中でキボンさん役を演じた俳優シン・ヒョンジュンは「障害を持ったキボンさんが、障害のない私たちよりもっと親孝行だということが恥ずかしい」と語った。
スクリーンの主人公たちの精神年齢が逆行している。事故や先天的に知的障害を負って成長できない人々が、映画の主人公として続々と登場しているのだ(表参照)。この主人公たちは 「正常だ」と自負する観客たちに恥ずかしい思いをさせる点で問題がある。社会の偏見をあざ笑うように、彼らは天然の言葉と純真無垢な表情で純粋・親孝行・愛など忘れられた伝統的価値感を悟らせてくれる。
20日にクランクインする『ハーブ』は小学生の知能を持つ20歳の知的障害児サンウンを主人公にしたヒューマンストーリー。この映画のエピソードを1つ。癌にかかった母親(ペ・ジョンオク)が病室でのどを詰まらせながらワカメスープをむりやり食べている。障害を持つ娘サンウン(カン・ヘジョン)が自分で作った誕生日のごちそうだ。ベッドの上の表示板に書かれた指示事項は「絶対禁食」。やっとその意味が分かった娘は母親の手首を噛んで絶叫する。「他の人たちがバカにしたらその人の腕をかみちぎれって言ったのに、ママはどうして私をバカにするの!?今、何か食べたらダメじゃない!」
俳優チャ・テヒョンが主演する映画『バカ』はマンガ家カン・プル原作の作品。タイトルから主人公の「アイデンティティ」を鮮明に表している。練炭の一酸化炭素中毒で知的障害を負った27歳のスンリョンは、人が死んだら星になると固く信じる純粋な青年。この利己的で世俗的な都会で、スンリョンは好きな友達のために自分の命を挿し出す。
映画界が「世俗に染まっていない主人公」に関心を持つのは、こうした素材の大衆性を確認したためだ。去年、自閉症のチョウォン(チョ・スンウ)の物語『マラソン』が500万人を動員して以来、こうした素材の映画が相次ぎ企画されている。『ハーブ』のジョン・ジュギュンプロデューサーは「長い間、映画界では障害者映画は失敗するというジンクスがあったが、去年の『マラソン』成功以来、観客はこうした映画を敬遠しないという共感ができた」と話す。
しかし人間勝利に焦点を合わせた『マラソン』の場合と違い、映画『少年、天国へ行く』のように大人が少年に退行するのは、また他の意味を持っているとの分析がある。果てしない政争や不安な経済などの現実的要因とともに、猟奇的殺人のような「理性の限界」を感じる事件が文化テキストの中で退行的な主人公の登場を煽っているというものだ。仁荷大学国文科のキム・ドンシク教授は「文化テキストの中で退行的主人公は、私たちの社会の成長に対する期待が挫折した地点から出現し始める。そんなことから、彼らは私たちの社会がどこから来たのか考えさせてくれる指標」と指摘する。