【レビュー】愉快で奇抜な日常…映画『きょうのできごと』


 『きょうのできごと』は特定人物に中心軸を置かない。主人公が特にいないからシナリオを引っ張る大きな筋もない。ドラマチックな起承転結もない。映画はタイトルに忠実で、ある偶然の1日の、普通の若者にも起きそうな出来事や外の世界で起きる事故を並べている。しかし‘難しい芸術映画だろう’という決め付けるのは早い。それぞれ魅力にあふれる10人の登場人物が作り上げる日常は、退屈にならず愉快で奇抜だ。

 正道(柏原収史)の大学院入学を祝うため、彼の家を訪れた中沢(妻夫木聡)ほか5人の友達。けいと(伊藤歩)はイケメンのかわち(松尾敏伸)に付きまとい、中沢の恋人の真紀(田中麗奈)は酒に酔って西山(三浦誠己)の髪をメチャクチャに切る。テレビでは42㎝の壁の間に挟まった男の救出作戦が生中継され、海辺に打ち上げられたクジラもニュースで伝えられる。

 彼らに起きる家の内外の出来事には、誰でも1日を満たすのに必要な小さな真心と小さな喜びが溶け込んでいる。一瞬一瞬、交差するときめきとイライラ、迷いと口惜しさ、寂しさと申し訳ない気持ち、羨ましさと胸いっぱいの気持ちも逃さない。

 行定勲監督は「どうしてドラマじゃなければならないのか?」という疑問から映画を作り、日々過ぎていく日常を描くためジム・ジャームッシュ監督の映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の乾いた映像を参考にしたという。だから行定監督の前作『GO』や『世界の中心で、愛をさけぶ』のようにリズムの幅が大きくなく平淡だ。

 『ウォーターボーイズ』『ジョゼと虎と魚たち』で韓国のファンを獲得した妻夫木聡と『ジョゼ・・・』のヒロイン池脇千鶴(ちよ役)が共演していて注目の作品。「明日っていつ?」「アホ、12時過ぎたら明日だって」「明日やね」「いや、今日になったんや」。映画はぽんと言い放つ。いつも明日を夢見るけど、今日があるだけだと。6日公開。

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