爽やかな酸っぱい匂いが一面に漂う慶尚南道陜川の「ク・クァンモ天然酢研究所」。細く切った松の葉と醸造用の蒸し飯を交ぜる作業に忙しい2人の女性の後ろには、10余の大きな壺が並んでいる。暖かいオンドル(床暖房)の床に置かれ、毛布までかぶった壺の周りには小さなハエが飛んでいる。ク・クァンモ代表は誇らしげな表情でこのハエを見る。「この小さなハエは酢を作る人間にとっては喜ばしい虫です。酢が美味しくできているという証拠ですから」
◆お酢で病気を治した経験
お酢。最近の健康ブームで人気がうなぎ上りの食品のひとつだ。お酢がどんなに体に良いのかをク・クァンモ代表のように切実に実感した人はいないだろう。1980年に事業に失敗し、それから10年間、大邱でタクシーの運転手をした。小便に血が混ざっているのを見て病院に行くと、肝炎、腎臓病、過敏性大腸症候群という診断を受けた。そんな時にめぐり会ったのがアン・ヒョンピルという人の書いた「公害時代の健康法」という一冊の本だった。この本でお酢は薬であるという事実を知った。
良質のお酢を探して全国を歩き回ったが、値段の安い氷酢酸や醸造酢ばかりで、伝統方式で作られた天然のお酢を手に入れることはできなかった。そして「本物のお酢を自分で作ろう」と決心した。幾度にも渡る失敗の末、1990年はじめに「本物のお酢」を作ることに成功した。クさんはこの間にすっかり健康も取り戻したという。
1997年、政府からの支援金と伝統食品の製造許可、そして発明特許まで取得した。
◆お酢はなぜ体に良いのか
お酢は酸性体質の改善に役立つ。お酢の主な成分である酢酸が筋肉にたまった疲労物質の乳酸を分解する。消化液の分泌を促進し、消化と吸収を促す。ビタミンと有機酸が豊富で、老化防止やがん予防、肝臓機能の活性化にも効果があるほか、腸内の有害な細菌をなくし、大腸炎を抑制、痔や便秘にも効き目がある。
しかし何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。慶熙(キョンヒ)医療院のシン・ヒョンデ漢方医学教授は「お酢を食べ過ぎると骨や臓器を損なう場合もある」と話す。
◆どんなお酢があるのか
お酢は醸造酢と合成酢に分けられる。醸造酢は穀物や果物で作られる。最近市中で販売されている醸造酢はエチルアルコールに水と酢酸菌を入れ発酵させた後、香りをつけた製品がほとんどだ。
稲作の盛んな韓国、日本、中国では米酢が多い。最近人気のある黒米酢は玄米を使って作ったお酢を3年間熟成させたもの。一般の米酢よりも栄養が豊富だとされている。
西洋では果物を使った酢が多い。ワインビネガーは酢酸を発酵させたお酢だ。バルサミコ酢はワインビネガーをクヌギの木の樽に入れ熟成させたもの。甘みが強くあまり酸っぱくないのが特徴で、濃度が濃いためこげ茶に近い色をしている。長い間熟成させているため風味がよく、それだけ値段も高い。
合成酢は水に薄い氷酢酸または酢酸にアミノ酸や甘みを添加して作る。有機酸やビタミンは含まれない。ク・クァンモさんは「石油から抽出した化学物質の氷酢酸が体に良いはずはありません」と話す。しかし値段が安いため、一般ではよく使用されている。
◆韓国ではお酢をいつから食べたのか
韓国では醸造法が三国時代以前からあり、お酢もその時からあったと推測される。朝鮮時代までも各家庭でお酢を作ったとされている。
◆お酢はどのように作るのか
伝統的なお酢の作り方は、まず麹に醸造用の蒸し飯を交ぜて酒を作る。この酒をお酢用の壺に入れると空気中の酢酸菌が発酵を促し、酒をお酢に変える。ク・クァンモさんが作るお酢は「松葉酢」、すなわち松の葉で作ったお酢だ。白米ではなく玄米に松の葉を入れて醸造用の蒸し飯を作り、ここに麹、麦芽、梨、生姜、ツルニンジンを加え酒を作る。この酒にはちみつを入れ壺で発酵させ、1年ほど熟成させたものを販売しているという。
松葉酢は澄んだ赤褐色。匂いにも松の香りが微かに漂う。氷酢酸のようにただ酸っぱいだけではなく、甘みもある複雑な味わいだ。香ばしい玄米の匂いも感じられる。これまで高血圧、糖尿、腎臓病の患者に薬として販売してきたという。1.8リットル5万ウォン(053)588‐6666、 www.kookwanmo.com