【レビュー】『ロマンス』


 膝から真っ赤な血を流すキム・ジスの前に、チョ・ジェヒョンがひざまずく。警察署の古びた宿直室のカーテンからさす強烈な陽射しがこの暗いカップルをそっと撫でる。『ロマンス』で最も光るこのシーンは、この場面だけで美しい。美しいイメージは互いのつながりの輪を見つけ出せず、『ロマンス』の凄絶な愛は、その愛がどうして凄絶なのかを観客に説得するため、もがいている。

 映画はまっすぐ破滅の終着駅へと疾走する。外見は何ひとつ不足のないユンヒ(キム・ジス)の真の姿は‘DV(ドメスティックバイオレンス)に苦しむ妻’であり、同時に夫(オム・ヒョソプ)の‘バービー人形’。強力班刑事ヒョンジュン(チョ・ジェヒョン)は妻に捨てられ借金の保証人にまでなったために最悪の日々を過ごしている。警察署刑事係で初めて出会った2人。身分の違いを(意図的に)無視して運命的な愛が始まるが、愛が深まるほどにその進む道は石ころやイバラにまみれていく。

 『ロマンス』は一種の自虐的ファンタジー。自分のすべてを投げ打ってもあなただけは守り抜くという純情。結局は死で終わっても‘あなた’と一緒なら後悔しないという覚悟(タイトルからして『ロマンス』だ)が繰り返される。

 陳腐な素材を選んだなら、アプローチは他と違っていなければならない。しかしデジタル長編『蝶』で創意的な映画の文法を披露したムン・スンウク監督は、初めての商業映画でその重圧に押しつぶれてしまったように見える。気持ちが離れた妻を精神病院に閉じ込め、言うことを聞かない刑事に麻薬を注射して取り除く極端な手法は作為的。

 フロア上のタンゴや屋上上空でのヘリコプター銃撃戦など、いくつかの繊細に細工されたビジュアルはバラバラに浮いているだけだ。全般的な感情が過剰な中で、刑事課長役のユン・ジェムンと、ユンヒの夫役のオム・ヒョソプが見せる抑えた悪役の演技は次回作に期待をもたせる。16日公開。

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