「僕ですか?絶対に舌足らずじゃありません。絶対に違います。後から録音した時も問題ありませんでした」
クォン・サンウは悔しそうな表情をしていた。「よく出来ているけど台詞の処理がちょっと…」と言いながら主演映画『美しき野獣』(原題『野獣』)の試写会を見終わった後、悔しさを隠すことができなかった。それだけクォン・サンウにとって今回の映画は重要な意味を持つようだ。
80億ウォンという巨額の制作費が投じられた超大作『美しき野獣』(12日公開)で、クォン・サンウは言葉よりも先に拳が飛び出す熱血刑事チャン・ドヨンを演じた。研修院を首席で卒業したスター検事オ・ジヌ(ユ・ジテ)と共に裏社会のボスを相手に血生臭い対決を繰り広げる。
ストーリーよりは映像で勝負するアクションノワールというジャンルの性格上、シナリオは骨太さに欠けるが、クォン・サンウの体当たりのリアルアクションだけはスクリーンで輝いている。時速180キロで車が疾走する道路の真ん中を走ったり、走るバスからは飛び降りる。
怒りで満ちた眼差しと悪に対する叫びが何よりもそれを物語っている。映画『火山高』『マルチュク青春通り』(原題『マルチュク通り残酷史』)『同い年の家庭教師』など軽快な学園物語に出演して固定されてしまったクォン・サンウの不良高校生キャラ。そこから脱したいという俳優としての強烈な想いが可能にした演技だ。
「今年で30歳です。童顔だからといって毎回高校生の役ばかり演じることは出来ません。今回の映画で大人の俳優として認められたいです」
黒いニット帽を深く被り、黒縁メガネをかけたクォン・サンウの姿からはそんな努力がうかがえる。映画の最後まで放たれる毒々しい野性、不健康な顔色、低い声。他人はこうしたイメージを年寄りのようだと嫌うが、クォン・サンウは早く年を取りたいと言う。
劇中、青筋を立てたチャン・ドヨンの口から放たれる言葉のほとんどには「~野郎」といった類の言葉が入っている。「ふだんからよく使ってるの?」とおかしな質問をしてみた。「そうですね。男同士で使うんだったら親近感の表れじゃないですか」。友だちの話しになってやっと顔から緊張がほぐれたようだ。
「学校の先生やってる奴もサラリーマンやってる奴もいます。ところが、こいつらときたら一緒に酒を飲む時は初めから財布を持ってこないんだから奢ってやるしかありません(笑い)」
すると突然クォン・サンウの携帯電話が鳴り始めた。クォン・サンウがポケットから取り出した携帯は、自らCMモデルを務めた「クォン・サンウ」モデル。メーカー側から無償で提供されたものと思いきや、クォン・サンウによると「自分で買った」とのこと。
「あ、そうなの? 『王の男』には勝たなきゃ」。映画『美しき野獣』の予約率が好調だというニュースを伝えるため、教師として働く実の兄がかけてきた電話だった。ライバル『王の男』の成績も教えてくれたようだ。「私は個人的に『王の男』が好調で良かったです。『タイフーン』(原題『台風』)や『青燕』のように巨額が投じられた話題作より注目されなかった作品が好調なのですからいいことじゃないですか。あまり人気が出すぎて自分たちの映画にまで影響を与えるほどなら困っちゃいますけど」