「試験に合格した気分です。パワーが漲りました。またこんな作品に出会えればと思います。もし私が他の映画で挫折を経験しても、最低限これから3~4年は俳優生活に堪えることが出来る力を込めた作品です」
他の俳優だったら儀礼的な言葉として受け止めたはずだ。しかし、カム・ウソンの告白なら事情が異なってくる。「欺いて商売はしたくない」という表現のように、自分の演技に対しても冷ややかな自己批判をすることで有名なカム・ウソンは、朝鮮王朝燕山君の時代を描いた『王の男』(29日韓国公開)に対しては熱い想いに溢れているようだった。
『情愛』(原題『結婚は狂気の沙汰だ』)『R-POINT』『蜘蛛の森』、そしてコメディ映画『大胆な家族』でさえ、繊細で鋭敏な男性役を中心に演じてきた自意識の強い俳優が『王の男』で演じた役は、朝鮮初の宮廷芸人ジャンセン。目隠しをして綱渡りする姿を披露し、朝廷を風刺する芸で燕山君の嫉妬と羨望を同時に受けるキャラクターだ。
実際に今年6月、クランクインを控えたカム・ウソンはイ・ジュニク監督としばらくキャスティングを巡って押し問答した。イ監督は彼をキャスティングしようとラブコールを送ったが、カム・ウソンは最後まで悩んだ。カム・ウソンは「恋愛に喩えると、男(監督)の本当の気持ちが知りたかった。男が何カラットのダイヤのリングを持ってくるのかが重要なのではなく、どれだけ私を信じて私の才能を求めるかが問題」と語った。
実際にカム・ウソンは監督の考えを知るために「コンギル」(女役を演じる芸人) 役を与えられれば考えると修正を提案をしたが、イ監督の断固たる拒否にむしろ嬉しかったと言う。生意気に思われるかも知れないという心配をしながらもカム・ウソンは「(トップスターのように)選択をするのに優先権があるわけでもなく、シナリオを多く受け取るわけでもないが、だからこそ判断が鈍らないように気を付けよう努めている」と語った。
決断を下すまでに相当の時間がかかったが、その後カム・ウソンの演技はイ監督を唸らせた。イ監督は「一人の俳優がある役を演じれば、その役に入り込んで演じきるには限界がある。カム・ウソンは一度も綱渡りをしたことも、パンソリを歌ったことも、チャングやクェンガリも手にしたこともない。ところが全部が完璧だった。だからカム・ウソンは素晴らしい俳優なのだ」と自分の選択が間違ってなかったことを強調した。
そうした背景があったのは事実だが、12月の韓国には超大作が続々と公開されている。『キング・コング』をはじめ、制作費100億ウォンを超える韓国映画の超大作の中で『王の男』(それでも制作費は40億ウォンを超える)がどうしてもインパクトに欠けるのは事実だ。
カム・ウソンは自分の出演した映画のこうした状況を「西洋のパーティー会場に韓服の外套だけを着て出席した感じ」と喩えた。しかし「12月に公開される時代劇なだけに、観客の関心を集められるかという心配もあるが、まったく新しい姿でこのパーティーの場をリードすれば、人気を独占できるだろう」と自信を語った。
カム・ウソンと別れる瞬間、独り言のように言った彼の言葉が思い浮かぶ。「好評を博してこそやりがいを感じるのは、綱渡り芸人も今の俳優も同じだ」。