岩井俊二という名前を聞いた時、雪に覆われた山や少女のはにかむ初恋の姿だけが思い浮かぶなら、あなたは彼のことを半分しか知らない。
『Love Letter』(1995) から10年。これまで韓国では知られなかった岩井俊二のまた別の顔が公開される。
『Love Letter』以降、韓国で公開された『四月物語』(1998)、『花とアリス』(2004)などが岩井監督の「純白純情」を見せる「ジキル」だとすれば、23日から公開される4本の陰鬱な映画は、監督の「隠された悪趣味」を表現した「ハイド」だ。
しかし、日本でファン層を獲得して「岩井ワールド」を構築したのは、まさにこの「悪趣味」の方だった。監督自らも自分の映画は「白い岩井」と「黒い岩井」に分けられ、韓国でこれから「黒い岩井」の4本が同時公開されるという知らせに「いよいよ私の全貌が暴露されるようだ」と表現した。
『リリイ・シュシュのすべて』(2001)は4本の中でも最も悲劇的だ。『Love Letter』で初恋の空間だった中学校はこの作品ではいじめと援助交際、性暴行が蔓延する地獄に転落する。監督はその地獄に弱い少年を送り込み最後の救援門まで閉めてしまうことで衝撃と余韻を残す。自ら「遺作として選びたい」と言うほどに強い愛着を見せた作品。
『スワロウテイル』(1996)は架空の都市「円都(イェンタウン)」が背景。3か国語が混在する無国籍ディストピアの強烈なイメージがファンタジーとドラマを行き来しながら展開される。岩井監督の作品の中で最も規模が大きく、ファンの間で「岩井美学」の代表作として挙げられている。
長編デビュー作である『Undo "アンドゥー"』(1994)は深夜時間帯にのみ上映されたにも関わらず売り切れを記録して「岩井世代」の幕開けを宣布した作品。 ロードムービー『PicNic』(1996)も各国の映画祭で最短期間で売り切れを記録した話題作だ。
中身のない表面だけの映画という評価もあるが、岩井監督の実験精神、小林武史の夢幻的な音楽、感覚的な映像が長い残像を残すことだけは確かだ。『スワロウテイル』は全国6か所の映画館で、残りの3本はシネコアで単館上映される。