『下流人生』の林権澤監督「時代に対する恨み描いた」

 1950年代後半、自由党末期の混乱期から70年代初めの軍事政権の維新体制までの激動の時代で生き残るために汚れのない主人公が荒廃していく姿を通じて、林権澤(イム・グォンテク)監督は「現在を生きる私たちも『下流人生』の主人公のように自分の精神的荒廃を悟ることができずに生きているのかも知れない」という言葉でインタビューを始めた。

 時代が時代だけに多少は野性的で暴力的に表現された場面もあるが、決して重苦しくはないストーリーテリングについて林監督は、誰もが一度は経験した話を描いたからだと説明する。

 驚くべきことにこの映画は完成されたシナリオや台詞があったのではなく、撮影前に頭の中で大きな絵を描いた状態で毎朝その場でエピソードを聞いてストーリーを構成して撮影をしながらフレームを完成していったという。

 「私をはじめ一緒に制作に携わったテフン映画社の李泰元(イ・テウォン)社長、鄭一成(チョン・イルソン)撮影監督など、当時を経験した多くの人々の実体験がそのまま描かれている」という林監督はこの映画で、10本の映画に同時出演する女優の話、当時の大統領を罵ったとタクシー運転手が乗客を警察に突き出すといった話など、今となっては信じ難いエピソードを見せてくれる。

 そうした誰もが経験した当然であった日常をどうすれば力強くユニークに描くことができるかが撮影の中で最も大変だったと言う林監督は、主人公のテウン(チョ・スンウ)の一生を描くために速いテンポで映画を展開させていく。

 しかし、テウンの妻、ヘオク(キム・ミンソン)の出産シーンだけは長いロングテイクで処理された。

 「監督生活していたためか、医者が私のことを不道徳だと思ったようです。『ちゃんと生きろ』という意味で医者に出産に直接立ち会うよう言われました。生命の誕生というものがこれほどまでに尊厳であることを、その時実感した」と、出産シーンを回想しながら林監督は顔をほころばした。


 この映画を観た知人から主人公だけではなく、自分も“三流”に生きるしかなかった当時に対する複雑な想いが込められているようだと言われたという林監督。彼の100作目となる次期作品は一体どんなものになるのだろうか?

 「デビューから10年間で50本の映画を撮りました。1年に5本のペースです。これらの映画を含めて100作目の映画が果して私にとってどんな意味を持つのでしょうか」

『スポーツ朝鮮/ナム・ジョンソク記者 bluesky@sportschosun.com 』

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