初恋は大抵過去形だ。しかしその純粋だった初体験は最も切ない想い出として昇華され、心の中に永遠に残る。さらにそれが成就しなかった悲しい初恋であればなおさらだ。
▲ワニとジュンハ=『ワニとジュンハ』のワニがまさに過去の初恋から自由になれないケースだ。現在、彼女の傍らには心温かな男ジュンハがいるが、腹違いの弟であるヨンミンとの結ばれない恋の記憶は彼女を絶えず過去に呼び寄せる。
板の間の掛け時計が「ディ~ン」と鳴れば、いつもその時計を1時間早く回して置き、どしどしと足音を鳴らすと彼女の部屋に来ていたヨンミンが思い出される。
マンガを書きながらスケッチブックがふわりと風で吹き飛ばされると、ヨンミンをスケッチしながら陽の光が差し込む窓辺で彼とキスをした場面が思い浮かぶ。どれだけヨンミンの部屋にきつく鍵を閉めても無駄だ。
なぜなら初恋という決して鍵を閉めることのできない想い出の勝手であるから。絶対に消されない記憶の焼印であるから。
▲四月物語=珍しいことだが初恋が未来形として描かれるケースもある。『四月物語』は高校時代、片思いだった先輩を追って同じ大学に進学した楡野卯月の愛の発端のみを描き、本格的な愛の過程は映画の外に、つまり未来に持ち越される。
実際、愛が最も美しい時は、それが芽生える最初の瞬間ではなかろうか。先輩のいる“武蔵野”という地名を思い浮かべるだけでも顔が赤くのぼせ、先輩が働く本屋に行く時はときめきと期待で胸がドキドキする卯月。
ついに彼女が自分の後輩であることを知った先輩が傘を貸してくれた日、「この傘、必ずお返しします」という言葉と同時に彼女のシャイな初恋が始まる。“4月”の桜と同じくらい美しい恋の「物語」の始まりだ。