「他の目的はありません。ただ最近はともかく不景気なので、一生懸命に生きるリスナーの皆さんの少しの力にでもなれたらという一心でやっているだけで、いつの間にか多くの皆さんから支えられるようになりました」
50が過ぎた年齢にも関わらず、絶えず新しいアルバムを発表して子供と同じくらいの芸能人とも冗談を飛ばし合う演歌歌手の太珍児(テジナ)。彼が最近、ラジオの魅力にどっぷりと浸っている。昨年5月から毎日午前11時5分に放送されているKBSハッピーFM(106.1メガヘルツ)『太珍児のショーショーショー』のパーソナリティーを務めている。
この番組は昔から聴取率の低い午前11~12時の時間帯をKBSラジオで一番人気の時間帯に生まれ変わらせた。無難なオールドポップソングやスタンダードな歌謡曲中心の選曲から脱し、演歌を中心に選曲して庶民層をターゲットにしたのが功を奏した。しかし、人情にあふれた太珍児のハイテンションなトークがなければ不可能なことだった。
「番組スタートの時点から他のパーソナリティーとはまったく正反対なことをしようと思いました。私がおとなしく番組を進めるなんて柄じゃありません。前奏や間奏が流れている時には必ず何か合いの手を入れたりしてリスナーを楽しませようと工夫しました」
太珍児のパーソナリティーのスタイルは、まるでリスナーと1対1で話しているようだ。「この放送を聞いているタクシーのお客さん、最近はタクシー業界が不景気なので100ウォンでも構わないのでチップをお願いします」「夫婦喧嘩中のご夫婦の皆さんは手を取り合ってチューでもしちゃってください」
こうした言葉が放送中に随所で発せられる。近くにいた番組ディレクターは「太珍児さんはスタジオに入ると楽しさを抑えられずに踊りながら放送しています。ある時はケガでもしないかと心配してしまうほどです」と笑顔で話した。
太珍児は「私も歌手になる前は36回も転職を繰り返す苦労をしたので、庶民の気持ちを誰よりも理解できる。メッセージをくれたリスナーや今この放送を聞いている方々の気持ちを思うと自然と言葉が出てくる」と語った。
靴磨き、中華料理店の配達、ノミ屋…。自分が経験した36もの職業を順に語る顔に一瞬暗い影が過った。この番組は今月末から太珍児が宋大寛 (ソン・デグァン)、玄哲(ヒョンチョル)、雪雲道 (ソルンド)といった演歌歌手らと共にタクシーやバスドライバーとして働く庶民を直接訪ね、現場から生放送を行う予定だ。
パーソナリティーである以前にデビュー30年目の歌手でもある太珍児に最近の音楽市場の不況について問わざるを得なかった。すると刺のある自省の答えが返ってきた。
「ただ歌っているだけでアルバムを出さない歌手が多いです。そんな状態で演歌のアルバムが売れないと嘆くのはおかしな話しです。アルバムを出しても新曲以外の曲は数合わせに以前の曲を適当に収録してしまうことも少なくないようです。われわれこそが率先して努力をしなければならないと思います」
昨年末にKBS芸能大賞のパーソナリティー部門で最優秀ラジオパーソナリティー賞を受賞した太珍児だったが、やはり本業は歌手であると改めて感じさせられた。