演劇『海溢』で熱演中の映画俳優 劉智泰

 真っ黒になった足の裏。俳優の劉智泰(ユ・ジテ)に会いに大学路(テハンノ)の小さな演劇の稽古部屋を訪れた時、真っ先に彼の足の裏が目に入ってきた。

 周りに目をやると、その真っ黒な足の裏は空間と結構似合っていた。雑然とした30坪あまりの稽古部屋で演劇『海溢』(イ・ヘジェ作・演出)に明け暮れている劉智泰は、伸びきった髪や髭の生えた素顔がすっかり演劇俳優だった。

 「稽古場のカビ臭さは、正気言って最初は慣れませんでした。それでも私が今、演劇をやっているということ自体が幸せで仕方ありません。予想不可能な劇的なストーリーがあって、それを観客の前で演じる演劇俳優たちの動きが私に大きな刺激を与えたからです」

 『海溢』は劉智泰の演劇舞台初挑戦の作品。1950年の仁川(インチョン)上陸作戦直後を背景に、残された二人の人民軍兵士の絶望と恐怖を扱ったこの2人劇で劉智泰は、映画『オールド・ボーイ』に看守役で出演したオ・ダルスと共演する。

 二人で作ったオリジナルの演劇で、劉智泰は共産党支持者で越北(韓国戦争当時、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に渡ったことを意)したハヒョン役を演じた。

 「私がダルスさんに一緒にやろうとしつこく誘いました。(オ・ダルスは「本当に?」と3度も問い返したと言う)。ダルスさんの体も顔も心も本当に魅力的な俳優だし、私をよく知っているので必ず一緒に小劇場の舞台に立ちたいと思いました。この作品は創作初演となるので映画とは違った真剣さが魅力的です」

 劉智泰は中央(チュンアン)大学の演劇映画学科に在学していた頃から演劇に出たいと思っていたという。しかし188センチもある身長がネックとなった。舞台で共演できる俳優が見付からず、スタッフに任せていては頼りにならないと一念発起して2人劇を直接演出して演じることにしたと言う。

 今回公演が行われる「ヘンボッカン(幸せなの意)小劇場」(客席160席)の舞台は、5、6歩も進めない程に狭く、手を伸ばせば照明に触れることができてしまうくらい天井も低い。それだけ観客と距離が近いということだ。


 「映画のたった1秒のカットでも真剣な演技でなければ観客にすぐばれてしまいます。重要なことは体の大きさではなく、私がいかにその人物に入り込めるかだったのです」。

 劉智泰はこの日、「心」「真剣」といった単語をよく使った。「舞台に立ったことがなかったので、テクニックは確かに足りないが、心の底から演じてそれが観客に伝われば成功」というのが彼の考えだ。

 映画『女は男の未来だ』の撮影のために100キロまで増やした体重は、一日8時間ずつ運動をして88キロまで減量した。オ・ダルスが演劇『男子衝動』にも出演しているため、午後10時から明け方の4~5時まで徹夜で稽古をした。

 劉智泰は「映画はフィルムに保存されるが、演劇は私の体に残る。これからも毎年、演劇1本、映画の演出1本、そして2年に1本のペースで映画に出演するのが夢」と語った。

 劉智泰の母親は初めて舞台に立つ俳優の息子に「台詞を度忘れしたらどうするのか」と心配したと言う(劉智泰がよく鍵や傘を忘れてしまうからだ)。しかし、劉智泰は本当に幸せそうな表情をしていた。プロの演劇舞台に立つ夢を10年かかって実現させ、自分のすべての力を出し切ってそれを見てくれる満席でも160人という少ないが大切な観客に会いたいという気持ちのためでもある。

 「奇蹟を信じる」と言う劉智泰が、この演劇を終えた後に演出する短編映画のタイトルは『盲人はどんな夢を見るか』だった。

 4月21日から5月2日まで、ソウル市・大学路、「ヘンボッカン小劇場」。問い合わせ(02)747-2090。

朴敦圭(パク・トンギュ)記者 coeur@chosun.com
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