ファンへの9通目の返事を完成させたシン・スンフン

 「1989年でした。加里峰(カリボン)洞のビアホールでアコースティックギターを片手に李文世(イ・ムンセ)とヘバラギ(ひまわり)の曲を歌いました。ところがソウルに上京してから1年後にまた故郷の大田(テジョン)に帰ることになってしまいました。腸炎になったのですが、毎日インスタントラーメンばかりを食べていたからでしょう」

 15年前の話を持ち出してシン・スンフンは陽気に笑った。当時、シン・スンフンは文字通りの臥薪嘗胆で『微笑の中に映った君』を作曲した。そして翌年の90年、この曲を発表して韓国バラード界の地殻変動を起こした。この時、彼は弱冠二十歳だった。そして現在までに1400万枚ものアルバムを売り上げた。

 シン・スンフンが9枚目のアルバム『9th Reply』をリリースした。約2年ぶりのリリースとなるアルバムについて、シン・スンフンは「私のアルバムはファンレターの返事で、アルバムタイトルには『9通目の返事』という意味を込めた」と語った。14日にはオリンピック体操競技場でコンサートも行う。

 「コンサートを意識して音楽を作りました。これはとても重要なポイントです。もうこれ以上テレビ主体の音楽生産と消費はしてはならないということです。テレビを観る不特定多数の人たちよりも、私のコンサート会場に直接足を運んでくれる14年来のファンの方が大事だからです」

 シン・スンフンのニューアルバムのタイトルトラックは4分49秒のバラード『そんな日が来るでしょう』。放送用としてはじめから3分45秒ほどに合わせて作曲をする歌手が大半だが、シン・スンフンは「どうしたら自分の子供のような曲に上っ張りだけを着せて世間に出せるのか」と熱く語った。


 誰かを批判する時も、シン・スンフンの目元はとても優しかった。シン・スンフンはテレビや街頭プロモーション、リップシンク(口パク)、似非R&B(シン・スンフンはこれを『変種』という意味で『SARS“重症急性呼吸器症候群”R&B』と呼んだ)といった言葉を挙げながらさらに語調を強めた。しかし目は相変らず優しそうに笑っていた。

 「今回も私が15曲すべてを作曲しましたが、欲張りすぎかなという気がしました。それで何人かの作曲家に5曲を依頼しました。そうこうしているうちにレコーディングが遅れてしまったんです」

 シン・スンフンは「ステージをしばらく離れているうちにオーディエンスの歓声が恋しくなった」と言う。

 シン・スンフンは3人の無名作曲家に直接電話をかけて作曲を依頼した。「もしもし、シン・スンフンだけど…」と言うと、相手は「あっ、そうなの?だったら私は趙容弼(チョー・ヨンピル)だな」と信じてもらえなかったと言う。

 「ドロシーミュージック」という自身のレーベルを運用するシン・スンフンは、こうやって新人を直接指導しながら自分の音楽世界を構築してきた。シン・スンフンは「ヒップホップもロックも手がける」としながら、「新人歌手を一人プロデュースしようと思っていますが、恐らくロックを歌う女性アーティストになるでしょう」と語った。

 新しいアルバムでは国楽やミュージカルにシフトするシン・スンフンの歩みを感じることができる。プロローグで国楽を借用したアニメ音楽を披露したシン・スンフンは、2曲目の『哀心歌』で三拍子のバラードに本格的な国楽のリズムを導入した。最後の曲『哀而不悲』では、サムル(四物)ノリ(四種の打楽器で演奏する韓国の民俗音楽)やフラメンコギターをアレンジした。

 そうかと思えば、ミュージカル歌手の金宣敬(キム・ソンギョン)とデュエットした『シアトルの眠らない夜』は今すぐ舞台で歌っても遜色のないミュージカルのサウンドトラックといった仕上がりだ。鍵盤と弦はシン・スンフンの五線紙上で細胞分裂を起こし、極上のラグジュアリーサウンドを作り出した。

 「『そんな日が来るでしょう』を聴いたら『これがなぜタイトルトラックなのか?』と疑問に思うかも知れません。以前はタイトルトラックを選ぶのにだいぶ気を使いましたが、この頃は聴いてもらうこと以外は特別考えていません。なので、だいたい5回以上は私の曲を聴かなければ良さが分からないでしょう」

 シン・スンフンは公演演出に多くの情熱を傾けている。「日本に毎年2回ほど行って公演を観て来ます。まるで別世界に足を踏み入れたように見るべきところが多いです。これからはそういった公演がどんどん韓国でも行われるようになるのだから、単純な照明の下でただ歌っているだけではいけません」

 シン・スンフンはインタビュー中に「デビューしてから14年」という言葉を最も多く発した。「その14年という歳月がプレッシャーなのか」と聞くと、「いいえ。趙容弼さんの35周年公演を目にしながら、一人こんなことを思っただけです。自分は14年、まだ新人だ。

一生やるのだから」

韓賢祐(ハン・ヒョンウ)記者 hwhan@chosun.com
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