張東健(チャン・ドンゴン)のファンクラブの名前が「アドニス」というのは絶妙だ。ギリシャ神話に登場する美少年のアドニスを愛した二人の女性は、最も輝く愛と美の女神アフロディテと冥界の神ハデスの妻ペルセホネだった。
ミルラ(没薬)になった母親から生まれたアドニスは内気な少年だったが、狩りをすることが最も好きな活動的な少年でもあった。
華麗なスター・張東健には光と闇、植物と動物の本性が共存する。そんな張東健が武器を片手に50年前の韓国戦争の舞台に立った。約147億ウォンを投じた大作『太極旗を翻して』で張東健は、戦争の渦中で弟(ウォン・ビン)を守ろうとするが、徐々に狂気と化していくジンテ役を演じた。
「以前は自分の役にだけ気を使う事が多かったのですが、この映画は総体的にプレッシャーを感じました。撮影期間・フ最後まで主演としての責任というものを学びました」
張東健はクランクインから間もない昨年6月初め、戦闘シーンを撮影中に膝の軟骨に大けがを負った。しかし、手術をすれば回復までの2カ月間、制作を中断しなければならい状況で、張東健は監督とプロデューサーだけに事実を伝え、そのまま強行軍で撮影を続けた。
苦労の末に撮影を終えて映画を観た感想を尋ねると「とりあえず表面上は芸術作品だと思え、少し確信が持てた」と答えた。
張東健はいつ会っても謙虚だ。張東健の謙虚さは「礼儀」ではない「体質」に感じられる。自分を立てる言葉をほとんど発しない張東健は、さらに深く問い詰めても恥ずかしがって「それでも」、「少し」、「幸い」、「それほど」、「なんとか」といった言葉を駆使して控え目に答える。
しかし、そんな張東健の「植物性」の裏には強烈な動物的な野性が宿っている。
最高のテレビスターとして君臨し、映画界に進出した張東健の経歴は『情け容赦なし』を基点に一転した。初めはラブストーリーを中心に出演したが、その後は『アナーキスト』、『友へ/チング』、『ロスト・メモリーズ』といった大作映画に次々と出演した。
「初めの頃は選択の幅が狭かったのですが、今は少し変わったのでしょうね。実は私が最も好きな映画は『ゴッドファーザー』のような作品なんです」
美少年の代名詞「アドニス」という名前の語源が、逆説的にも「君主(adon)」であるという事実がこれで分かった。
それでは、その直前に撮影した奇妙なB級映画『海岸線』に出演した理由は?
「自分が演じることのできる役は限られているのだろうかと長い間考えてきました。『海岸線』はそれを実験できた作品でした」
「実験で得た結果は?」と聞くと、張東健はこう表現した。「自分が自信を持って演技できる役だけを演じても、残りの人生では足りないでしょう」
実際、誰もに愛されるアドニスは凶暴な軍神マルスになる理由も、天上の火を盗み出す危険を冒すプロメテウスになる必要もない。
張東健は韓国型ブロックバスターの「大黒柱」としての俳優の価値をすでに十分に立証したのだから。
「ハリウッドの有名な映画制作者に出演作の中から二つDVDを送るとしたら?」
俳優暦12年の張東健に尋ねた。
「そうですね、まず『友へ/チング』は送らなければならないでしょうし、あと1本は『情け容赦なし』と『恋風恋歌』のどちらかで悩むのではないでしょうか」
『友へ…』は「“それでも”役者をやってきた中で一番認められた映画」だからで、『情け容赦なし』は「国際映画祭でも上映され、西洋人にも“それなりに”東洋人が格好よく見える作品」だからという。
それでは『恋風恋歌』は?
「『友へ…』と対極にある映画だからです。『友へ…』とは違うソフトな演技も見てもらいたいですから」
謙虚な言い方だが、本人もやはり自分の魅力をよく知っているようだ。
済州(チェジュ)島を舞台にした絵葉書のような恋愛映画『恋風恋歌』での張東健は、自然の風景を圧倒する存在感を発揮していた。
張東健は自らを「ラッキーボーイ」と呼んだ。
しかし、映画『ビューティフル・マインド』でジェニファー・コネリーは「いい決断をしてこそ幸運もついてくる」と話した。
ますます悩みが増えているというこのスターは、今度はどんな決断をして観客を楽しませてくれるのだろうか。