金ウンスク監督の『氷雨』(16日公開)は、広大な雪に覆われた山をスクリーンいっぱいに映し出す最初のシーンから視野が開けるような印象を与える。
今までの韓国映画では見られなかったこうした壮観さは、忠武路(チュンムロ/韓国映画の中心地)のレベルがまた別の境地に達したことを感じさせてくれる。カナダのマイナス30度に及ぶ極寒の山岳地帯で撮影されたこの映画は、場面ごとに制作陣の苦労が滲み出ている。
雪の中で展開される悲しい愛の物語を描いスこの作品は、不倫の男を含む3人の関係を基本に扱いながらも、ダークな印象は一度も与えずに終始美しく描かれている。
しかし、眩しいほどに白い雪と柔らかいチェロの音が響くこの天上のラブストーリーは、現実の影の部分はひたすらに見せず、ただただ美しい。あまりに澄み切った水に魚は住まない。
アラスカの山岳地帯で登頂に挑むジュンヒョン(李誠宰(イ・ソンジェ)扮す)とウソン(宋承憲(ソン・スンホン)扮す)は、登山途中に遭難する。洞窟の中でただ助けを待つ二人は、さまざまなことを話しているうちに同じ一人の女性を愛していることに気付く。
『氷雨』は国内初の山岳映画として注目を集めているが、実際は山岳映画というよりは純粋なラブストーリーに近い。
ラブストーリーとしてのこの映画の物語は、基本的によく作られている。妻のいる男と悲しい恋に落ちる女と、その女性をただ遠くから眺めているしかなかった悲しい男の過去が一つずつ明らかになっていくのも興味深い。
しかし、この映画は遭難、3人の人生や三角関係を扱っていながらも緊張感に欠けている。最大の理由は過去と現在を機械的に交差させ、無理やりに結び付けさせる構造的な欠陥のためだ。映画序盤に二人の男が遭難した後、二人の回想として随時、過去の場面が映し出されるが、二つの時間の間にスムーズさはなく、度々ラブストーリーのリズムを崩してしまう。
ラブストーリーは展開する場面よりも、その場面が与える余韻が最も重要なジャンルであるだけに、それぞれの場面が互いの余韻を壊すといった編集は物語に入り込む余地を閉ざしてしまう。切々としたおぼろげなエピソードが多いにもかかわらず、これといったアクセントがないまま平坦に続く演出スタイルも惜しまれる。
顎髭と口髭をたくわえた顔で悔恨に満ちた愛を反芻するジュンヒョンを演じる李誠宰は、この映画で自分の役割を十分に果たしている。李誠宰は『ガソリンスタンド襲撃事件』(日本公開タイトル『アタック・ザ・ガス・ステーション!』)や『公共の敵』で大成功を収めたが、実際には今回のような役が最も似合っているようだ。
金ハヌルは熱演をしたが、二人の男の人生を支配する「運命の女性」としては存在感に欠ける。宋承憲はスクリーンに相応しい魅力を持った俳優だということを再確認させてくれるが、まだ映画の中で自分だけのキャラクターを形成するには至らなかった。