脚本家も泣かせる熱演を見せる女優 金喜愛

 森の中の空間は白い霧に覆われていた。足元には一面、落ち葉が広がっている。

 19日深夜、京畿(キョンギ)道・利川(イチョン)の某企業研修所の庭にテレビ局の照明が点った。SBSの週末ドラマ『完全な愛』の野外ロケが始まった。

 このドラマのストーリーは簡単だ。トッポッキ(餅の辛味噌煮)屋の娘ヨンエ(金喜愛(キム・ヒエ)扮す)が、年下で金持ちの息子のシウ(車仁杓(チャ・インピョ)扮す)と結婚し、貧困と婚家のいじめに耐えながら暮らしていたが、不治の病にかかってしまう。

 死を目前にした彼女が家族や友人と共に空気の澄んだ森に旅行に来たシーンだった。みんなが集まって花火をする短いシーンを、郭泳範(クァク・ヨンボム)プロデューサーは2時間をかけて何度も撮り直した。

 休憩時間に金喜愛とロケ現場の片隅にある静かなオンドル部屋でインタビューを行った。メイクのせいか金喜愛は少しやつれて青白く見えた。

-悲しみが込み上げる台詞が一際多いドラマなので大変ではありませんか?

 「泣いたり、苦しんだり、悲しんだりと、家に帰っても一人で何回も練習をします。できるまで、その感情を正確に深く理解できるまで何度もです。適当な振りをしただけの演技なら、まともに伝えられませんしカタルシスも得られません。撮影の時になっても『ここで目を開けるべきかどうか』なんて思っているようでは、まだ役に入り込んでいない証拠です」

 「完全に役に入り込めば、適当な気持ちや、計算も雑念も消えます。その状況に入り込んで、感情のすべてを感じるようにします。そんな時は本当に気が引き締まります。それこそがカタルシスのようです」

 助演出の李チャンウディレクターが「先週、シナリオ練習の時に脚本の金秀賢(キム・スヒョン)さんが、金喜愛さんの台詞を聞いて涙していた」と口を挟んだ。非常に珍しい事だった。金喜愛は静かに「もういいですか」と尋ねた。


 「最近、夜に眠れません。せっかく寝ても1時間もしないうちに目が覚めてしまいます。覚えた台詞が頭の中でぐるぐると回っていて…。ギャンブルにはまった人が寝ている時に天井からトランプが降ってくる錯覚に陥るように…」

 金喜愛はしばらく間を置いてから「それでももっと役に入り込まなければ」と語った。

 「私は今回、このドラマに背水の陣のつもりで臨んでいます。そして、その気持ちを楽しむことにしたんです」

 金喜愛は今年で満36歳になる。83年にモデルとしてデビューし、84年から映画やテレビドラマに出演するようになった。

 『息子と娘』『爆風の季節』『カレイスキー』など、80~90年代半ばにかけての大型ヒットドラマに多数出演した。

 96年に3歳年上の李燦振(イ・チャンジン)ドリームウィズ社長と結婚した。華麗な経歴に華麗な結婚。金喜愛は「ですが人気絶頂の時、私はとても孤独でした」と話した。

 「私は水踰里(スユリ)で育ちました。10代でこの仕事を始め、夢中で20代を送りました。今考えれば、『自分』がぽっかり空洞になっていたような気がします。20代後半にはもう、老婆になったような気分でした。うつ病の治療を受けたこともあります。結婚してから安定したんです。時々一人で『安定しすぎじゃないの?芸術をやるには少し不安定でなければならないのに』と思うほどに」

-幸せですか?

 「ただただ感謝しています。30歳を過ぎて、家族が元気でいることがどれだけありがたいのか知りました。この7年間、息子を2人生んで育てながら、平凡に生きてきました。おくるみに子どもを背負い、近所の店に行くと、みんな喜んでくれました」

 金喜愛はデビュー直前、金秀賢が脚本を書いた映画『オミ(母)』のオーディションを受けて落ちたことがある。金喜愛は「だからこそいつか声をかけてくれるのを願っていました」と話した。

-なぜ金秀賢ドラマに出たかったのですか?

 「87年に『愛と野望』で金清(キム・チョン)先輩が主人公(李徳華(イ・ドクファ))と愛し合う寡婦役で出演しました。見ていてとても切なかったです。テレビを見ながら『あんな役をいつかやってみたい』と思いました。一生懸命やれば、いつか私にも番が回ってくると思ったら、全く声がかからなくて」

 「先生とは20代前半にプライベートでお会いしたことがありましたが、『砂利にごま油をぬったような人』と言われました。誉められたのか、けなされたのか、しばらく考えました。

『完全な愛』のヨンエ役の話がきた時、ようやく私にも番が回ってきたと思いました」

利川=金秀恵(キム・スヘ)記者
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