悲劇の長期囚 金ソンミョンを描いた映画『選択』


 1951年、国連軍の捕虜になった共産主義者、金ソンミョン(金ジュンギ扮す)。

 1972年、大田(テジョン)刑務所に移され、“3596”という受刑者番号を与えられた彼は、共産主義者専門担当班長のオ・テシク(アン・ソックァン)と出会う。父が人民軍の銃弾に倒れ、片足まで不自由なオ班長は、言葉と暴力で転向を強要し、共産主義者たちは一人、二人と転向書を書き始める。

 『選択』(24日公開)は戦争捕虜として45年を監獄で過ごした非転向長期囚(韓国でスパイ罪などで摘発されたものの政治的転向を拒んできた長期囚)金ソンミョンの生涯にスポットライトを当てた悲劇の物語だ。

 『胸に芽生えた刃で悲しみを断ち切って』で無力な疎外階層を扱った洪基善(ホン・ギソン)監督は、この映画で非転向長期囚を通じて分断の現実を淡々と描いている。理念を払拭して人間に焦点を合わせており、映画は重苦しくない。

 英雄はいない。非転向長期囚たちは女の香りを懐かしみ、カビの生えたパンを密かに食べる弱者として描かれている。

 この映画は閉じ込められた者についての話だが、閉じこめた側の話でもある。南を代表するオ・テシク班長は、独自の論理と説得力で金ソンミョンとの間に張り詰めた緊張感を保ち、映画的なバランスを補っている。

 さまざまなキャラクターの金ソンミョンの周辺人物たちも自然と映画に溶け込んでいる。

 しかし、舞台はほとんど刑務所から脱しない。洗濯、縫い物、スポーツなどの日常と壁を挟んで対話を交わすといった描写はあるが、画面は始終単調だ。

 実話を元にしているが、金ソンミョンの釈放と母親との再会があるにも関わらず、映画はクライマックスを迎えられずに終わってしまうのは、構造的な欠陥とも言える。

 「家族や私の人生で、父は瘤のような存在です」

 娘が非転向長期囚の父と面会しながら漏らした言葉だ。

『選択』はその瘤を作ったのは人間ではなく分断だと訴える。

朴敦圭(パク・トンギュ)記者
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