タレントのクォン・ヨンチョル(28)は99年、帯ドラマ『あなたは誰』でデビューし、大河ドラマ『洪国栄』、帯ドラマ『この夫婦が暮す方法』に出演した。しかし、彼の名前や顔はまだ十分に知られていない。脇役だけを演じてきたからだ。
デビュー作では台詞が一言もない役を演じた。小間使いとして出演した『洪国栄』での台詞は、たった一言「はい、ご主人」だけだった。
2001年に出演した『この夫婦…』では洞長役を演じ、初めて長い台詞を口にした。部下の職員たちに「今年もご苦労様」とあいさつするシーンだった。
本人と家族、高校の同級生以外は、誰も注目しなかったこのシーンを撮りながら、クォン・ヨンチョルは父親に不満を漏らした。「父さんは他の人達のように息子をもうちょっと助けてくれないの?」。
クォン・ヨンチョルの父親はドラマ『愛と野望』でお馴染みの有名俳優、南星勳(ナム・ソンフン/本名:クォン・ソンジュン/2002年他界)だからだ。
しかし、生前の父“南星勳”はいつも「駄目だ。一生やっていく気なら、自分の力で仕事を取ってみろ」と軽くあしらうだけだった。クォン・ヨンチョルは「うちの父は無口で、はっきりとした性格の厳しい人でした」と回顧した。
南星勳は1968年にデビューし、87年『愛と野望』に主演、一躍スターとなったが、貧しい無名時代から脱してちょうど8年目に「多発性神経系萎縮症」という不治の病に冒され始めた。
全身の筋肉と臓器は徐々に麻痺していくのに、最後の瞬間まで意識だけははっきりしている病気だ。医師は「苦痛を感じずに済む最後の慈悲さえもない病気」と歎息した。
息子が演技者としてデビューした時、父親の病気はすでにかなり進行している状態だった。クォン・ヨンチョルは母親(55)と姉(30)と共に8年間、父親を看病した。
「だから実際には、大役を与えられても、まともに演じることはできなかったでしょう。父を風呂に入れなければなどと考え、ロケも早々に終えて急いで家に帰ることばかり考えていましたから」
辛い記憶だったろうに、クォン・ヨンチョルは静かに笑った。
「看病自体は辛くはありませんでした。家族で約束したんです。後悔するのはやめよう、与えられた時間を精一杯に愛し合って生きようと。むしろ、世間の人々が父から離れていくのを見る方が辛かったです」
10年以上も南星勳が通っていた美容院さえ態度を変えた。親子が予約までして行ったのに、院長は突然、どこかの新人タレントを優先し、2時間も待たせたあげく、一言も断らずに外出してしまったこともあった。
無駄足を運んだ父に寄り添って帰宅した息子は、のどを詰まらせながら「いつか見返してやる」と鼻息を荒げた。クォン・ヨンチョルは「今振り返ると、ただ虚しいだけ」と語った。
クォン・ヨンチョルは最近、SBSテレビのドラマ『完全な愛』に金喜愛(キム・ヒエ/36)の弟役で出演している。貧しい食堂の女主人(鄭恵善(チョン・ヘソン))の一人息子として育ち、裕福な家庭の入り婿になる青年役だ。
それほど比重のある役ではないが、クォン・ヨンチョルは「この世の中に『小さな役』などありますか?」と問い返した。
「父が亡くなった日、おじに『花輪を10個注文して立ててくれ』と頼まれました。俳優だった父を寂しい霊安室に寝かせたくなかったんです。ところが花輪を注文したと同時に、弔問客や花輪がどっと押し寄せてきました。
中年のファンの方が弔問にいらした時、ふと『父は充実した人生を送ったんだな』と気付かされました。私もこれからがスタートです。
父に恥ずかしくない俳優になります」