一味違う時代劇『スキャンダル/朝鮮男女相悦之詞』の李在容監督

 初めは李在容(イ・ジFヨン)監督(38)のことを誤解していた。

 5年前に初めて李監督に会った場所はソウル市・清潭(チョンダム)洞にあるフュージョン・レストランだった。その後に行った二次会は、お洒落なワインバー。しかも年齢に比べてずいぶんと若く見える風貌は、非常に洗練されていた。

 そして李監督が後に発表した長編デビュー作『情事』で“優雅なスタイル”を目のあたりにし、第一印象のイメージは確固たるものになった。

 しかし、回を重ねて会っているうちに、李監督には互いに相反するような要素がとても多いことが分かった。繊細なグルメだが、ほとんどの食事は安い食堂で適当に済ませ、クールなマナーをわきまえていながらも温かい心遣いがよく感じられた。

 『スキャンダル/朝鮮男女相悦之詞』が11日までに、公開から10日で200万人の全国観客を動員、大ヒットを記録している。ペ・ヨンジュン、李美淑(イ・ミスク)、全度妍(チョン・ドヨン)が共演したこの映画は、18世紀の朝鮮を背景に、恋愛をゲーム感覚で楽しむ浮気者の物語を描いている。

 人々を魅了している『スキャンダル』の魅力とは何か。それは主流のずば抜けた完成度に、非主流の独特の感性が魅力的に混在しているからではなかろうか。やはり『スキャンダル』は李在容監督自身にそっくりだ。


 「皆さん祝ってくれるのですが、特別何も感じません。ほとんどの人が時代劇は成功が難しいとお手上げ状態で、ともかく苦労して撮影したので、無事に撮影が済んで、投資した人に損害が出ないようにと願うばかりでした。ともかくよかったです」

 これほど成功した作品を手がけた李監督が「うれしい」の一言も直接口にしないのはおかしいと思い、無理に返事を導いた。ようやく得た最も感情を表した言葉は「うれしかったのは確かでしょう」だった。

 李監督は「以前の作品よりずっと厳しい挑戦だったので成就感は大きかったが、『スキャンダル』は『情事』と『純愛譜-じゅんあいふ-』に続く私の三作目の映画であるだけ」と説明した。

 恐らく『スキャンダル』は今年公開された韓国映画の中で、技術的に最も優れた作品だろう。「この映画で違ったことは、すべては諦めても美術だけは諦めたくなかった」と言う李監督は、「これからは韓国にも、しっかりと過去を活かした時代劇が必要だということを確信した」と語った。

 李監督は衣装や小道具などの美術関連の分野だけに約20億ウォンを投じ、1シーンごとに完璧主義的なタッチを加えた。「韓服の色感の程度は除いて、徹底的に考証にこだわりました。映画を作るほどに基本が大切だと実感しています。あまり流行を意識すれば、すぐに古臭いものになってしまいます」

 しかし、体質的に主流を嫌うという李監督の性格は、この映画でもそのまま貫徹されており、“一風変わった時代劇”となっている。

 「慣習的なことが嫌いです。時代劇だからと言って、必ず伽椰琴(カヤグム/撥弦(はつげん)楽器の一種)のBGMを流してはいけないと思ったんです。『スキャンダル』というタイトルも時代劇らしくないもので決めましたしね」

 「内容も同じです。時代劇といえば宮廷内での暗闘、もしくは女性間の争いとかに限られてきますが、何か他のことがやりたかった」

 李監督は観客を爆笑させているこの映画の独特な文語体の台詞について「この映画の原作であるフランス小説の書簡体独自の魅力を描き出そうと思った」とし、「言葉でする刀の戦いのような感じにしたかった」と説明した。

 李監督がこれまで制作した3本の恋愛映画は、ロマンチックなエピローグで締め括られているにも関わらず、恋愛に対するシニカルな姿勢が滲み出ている。もしかすれば、李監督は自分すら信じていないものを語っているのではないか。

 「私にとってロマンチックな恋愛を信じるかという質問は、神を信じるかという質問と同じです。信じてはいないが、どこか存在しているような感じがする、というか。愛は維持のテクニックが必要なゲームだと思いますが、漠然と純粋な愛情を夢見ることもあります」

 「実は、私はラブストーリーに没入することができません。白雪姫は小人たちと浮気をするのではないか、シンデレラは“嫁いびり”をされ、追い出されるのでないかと想像するタイプですね(笑)。恋愛物を撮りながらも、運命的な愛情には距離を置くんです。『本当に彼らは幸せだっただろうか』と問い掛ける、奇妙な恋愛物とでも言いましょうか」

 インタビューを終えた後、香港風中華料理店で夕食を共にしながら、次作に対する李監督の考えについて聞いてみた。

 「王の一日をそのまま再現する時代劇を撮ってみたいですね。食事からセックスまで、王がどんな一日を過ごしたのか詳しく描けば、商業的ではなくても、人々が興味を持つんじゃないんでしょうか。そうそう、10代の初恋に関する映画や可愛い尼僧が登場する映画、それにミュージカルもやってみたいですね。料理関連のテレビドキュメンタリーも撮りたいし」

 一見何事にも無関心そうに見える李監督は、実際好奇心旺盛で意欲的な人物だった。夕食の際、李監督が注文した料理は、「家鴨のバーベキューと豚肉カルビ」と「野菜・エビ・帆立貝料理」。「あれこれ一緒に出される料理が食べたかった」という。なるほど、頷ける説明だった。

李東振(イ・ドンジン)記者
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