徐々に近寄ってくる植物性恐怖 『アカシア』

 ゆっくりで静かだが、貪欲だ。映画『アカシア』(17日公開)は植物性だ。このホラー映画は、動物的な暴力で血を振り撒くといった一騒ぎを演じるようなことはしない。恐怖の存在は犠牲者を探し出す代わりに、植物の根が徐々に這うように人々を巻き込んでいき、家庭を襲っていく。

 子供がいないこと以外、表面上は完璧な夫婦のミスク(沈恵真(シム・ヘジン)扮す)とドイル(金ジングン扮す)。木の絵を上手に描くジンソン(ムン・ウグン)を養子にするが、ジンソンは庭にある枯れかかったアカシアの木に話しかけたりと奇怪な行動をする。

 ミスクが奇蹟のような妊娠をすると、ジンソンの妄想はさらにひどくなる。「お母さんは雨が降る日に死んで木になった」と口癖のように言っていたジンソンは、土砂降りの雨が降る日に家を出たっきり帰って来ない。

 道端に幽霊のように立っている木々を映しながら始まる『アカシア』は、絵に執着するジンソンのように口数が少ない。

 湖のように物静かな登場人物たちは、必要な言葉だけを発して静寂を維持する。しかし、彼らの幸せな生活は、絵の具のように滲むジンソンの妄想と共に崩れ落ちる。

 この映画には植物をイメージさせる力がある。家の中に差し込む木の影、ミスクが編んだ服を解いてしまうジンソンの突発的な行動、赤い糸でぐるぐる巻きにされた家、虫のように這う糸、ミスクの義父と実の母親の死などは、すべてアカシアの木と関係する。

 枯れかけていたアカシアの木に葉が出て花を咲かせるほどに、ミスクとドイルは血を吸われたかのように顔は青白く、やつれていく。

 沈恵真は5年ぶりに忠武路(チュンムロ)復帰した。不妊、養子、妊娠を順に経験する女性の複雑な感情は、彼女の安定した演技で見事に表現された。ムン・ウビン(6)はデビュー作であるのが信じられないほどの好演で、ジンソンのキャラクターを演じきった。

 しかし『アカシア』は確かに監督の映画といえる。『女子高怪談』で韓国ホラーのレベルを引き上げた朴キヒョン監督は現実で意識的に抑えた台詞と動きを妄想や夢のシーンで消費し、魅惑的な恐怖のパズルを作り上ける。

 過度な妄想の力で始まる『アカシア』は、夢の中の話が所々で切られ、具体的ではないように説明は最小限に抑え、木の唸りと共にショッキングな画面を突きつける。緻密な計算で現実や妄想、夢を混ぜ合わせ、映画は緊張感とスピード感に溢れ、反転の破壊力も倍増された。

 アカシアの木ほどに生命力のある植物も珍しい。ジンソンの妄想は夫婦の妄想へと、そのまま伝染する。ユーモアの部分が不足しており、その猪突的な“根”が客席まで届くかは分からないが、『アカシア』は確かに韓国ホラーの幅を広げた作品だ。

朴敦圭(パク・トンギュ)記者
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