釜山映画祭を訪れた『ドッペルゲンガー』主演の役所広司さん

 「釜山(プサン)映画祭がアジア最高の映画祭だという話をよく聞きましたが、一目でとてもエネルギッシュな映画祭だと確信しました。今後日本映画が韓国に全面開放される中、ワールドカップ(W杯)がそうだったように、韓日両国が映画界最高のパートナーとして共同作業を幅広く行っていくことを願っています」

 日本人俳優の役所広司(47)さんが韓国にやってきた。釜山国際映画祭史上、日本映画としては初のオープニング作品となった『ドッペルゲンガー』の主演俳優としての来韓だ。

 ここ10年余間、役所広司さんは“日本人の顔”だった。『Shall we ダンス?』から『うなぎ』、『失楽園』、『CURE』、『ユリイカ』など、国際的に有名な日本映画の多くに役所さんの顔があった。

 基本的に暖かく優しい役所さんの顔は、作品毎に異なるイメージを深い表情に刻みながら、さまざまな日本人の観念を見せてくれた。

 数多くのカメラを引きつけ、今年の釜山映画祭のトップスターとして人気を呼んでいる役所さんは、今回の出品作で自分の「ドッペルゲンガー(分身)」と会う発明家の役を演じた。

 現在、日本映画界最高の監督して脚光を浴びている黒沢清監督のこの新作は、役所広司さんの1人2役の演技を通じて、自我の分裂とアイデンティティについて真摯に問う映画的存在論。上映後にはオープニング会場を埋めつくした5000人余の観客から暖かい拍手を受けた。

 そんな役所広司さんに、3日午後パラダイスホテルでインタビューした。

 「同じ映画で2役を演じれば出演料を2倍もらえると思ったのに、そうではありませんでした(笑)。1人2役の演技は、俳優にとって大変魅力的な挑戦であると同時に、大きな負担を与える仕事でもあります。

 二人が同時に登場するシーンでは、特殊効果合成のために他の人物の動きを完全にマスターした後、タイミングを合わせるのですが、そう簡単ではありませんでした。1人の中にある2つの性質を活き活きと表現するのも難しかったです」


 役所さんは「映画を撮影しながら、暴力的で野卑だけども人間的な面もある主人公の分身にだんだんと傾いていく自分自身を発見して驚きました。撮影中には私自身も知らなかった一面を発見したし、普段は嫌っていた自分の姿が投影されたりもしました」と話した。

 「それはどういう姿か」と質問すると、役所さんは顔まで赤らめて「とても恥ずかしいので言いたくない」と答えた。

 役に入り込む役者と役を引き寄せる役者がいるなら、役所さんは前者だ。

 人のいい公務員(役所さんは俳優になる前は区役所に務める公務員だった)のようなイメージと、寡黙で残忍な侍のようなイメージを併せ持つ役所さんは、ラブストーリーからホラーまで、さまざまなジャンルで活躍してきた。

 4年前、日本で会った時「何色にも染まらない俳優として残りたい」と語った役所さんは当時を振り返り、「どんな色でも完全に表現できる真っ白なイメージを持ち続けたい」と語った。

 日本屈指の監督と数々の映画を作り上げてきた役所さんに寸評をお願いした。

 「巨匠の今村昌平監督(うなぎ)は70歳を超える高齢にもかかわらず、誰よりも若い作品を作ります。低予算映画を撮るので、いつも安い宿舎で自炊しながら撮影します。森田芳光監督(失楽園)は洗練された映像感覚がすばらしい。

 周防正行監督(Shall we ダンス?)は子供からお年寄りまで楽しめる映画を目指しています。小栗康平監督(眠る男)は静的で深みのある演出で俳優に多くのことを教えてくれます。私とは5作品を撮影した黒沢清監督は、一言で不思議な人物です。撮影前に徹底的に準備し、現場では誰よりも早く撮影します」

 “日本の安聖基(アン・ソンギ)”のようなイメージを持つ役所さん(誕生日も同じ1月1日という)に安聖基についてたずねると、「『眠る男』で共演しましたが、台詞ひとつなく眠るだけのシーンで毎回監督と真剣に話し合っている姿を見て、多くを学ばせてもらいました。本当にすばらしい俳優です」と答えた。

 10日に韓国で公開される『ドッペルゲンガー』に続き、日本映画の全面開放を受け、韓国の観客は間もなく『CURE』、『失楽園』などの作品で役所さんの真骨頂を味わえるはずだ。

釜山(プサン)=李東振(イ・ドンジン)記者
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