「私が見窄らしいこんな体になったのは、自分のせいじゃない。お前たちも分からなければな。いつかはこうして年老いていくことを」
年老いて弱った馬は、舞台の片隅でふらつく自分をいじめる若い馬たちに訴える。両手を前足のように長く伸ばしながら虚空に向けて「ヒヒーン」と泣き叫んだり、重たそうな目をぱちくりさせる表情は確かに馬の姿だ。
この役を練習中の俳優、柳仁村(ユ・インチョン/52)。彼が自身の代表的レパートリーである演劇『ホルストメル』(マルク・ロゾフスキー作、金クァン演出/10日~11月9日/ユ・シアター)に再び登場する。
午後11時過ぎになってようやく稽古が終わって一息つき、舞台から降りてきた柳仁村の顔からは、大粒の汗が流れていた。
「6年前の初演の時にはこんなにも大変ではなかったのに、私も年なんでしょうかね。走る動きをしながら泣き叫ぶので息切れしちゃいます。若者たちは自分が年を取るということを考えないという台詞がまさに当てはまります。いつかは誰もが年を取るのに…」
この演劇の原作は「生きることとは何か」ということを描いたトルストイの寓話だ。ホルストメルというシマウマ(柳仁村)は、愛するメスウマ(金スリョン)を血統馬(ウィ・フン)に奪われて挫折するが、公爵(チョ・ギョンファン)が主人になり、競走馬として成功する。
しかし公爵が落ちぶれると、再び無用の馬となってしまう。愛、苦痛、老い、死を扱う“ヒューマン・ドラマ”だ。柳仁村は「年老いて死ぬまでこの作品を演じたい」と言う。
「ロシアでこの作品に主演した俳優は、若くてしてこの役を始めて80歳が過ぎるまで演じ、その後に亡くなったといいます。この演劇は馬の体を借りて心に訴える人間の物語です」
「一昨年の公演時に仁川(インチョン)に住むある30代の男性が、この演劇を観て私に手紙を送ってきました。通貨危機の時、事業に失敗して自殺まで考えたが、この演劇を観てから生きることがどれほど大切かを切々と感じたと。再び成功したらこの演劇に投資したいと」
「その手紙がどれほど大きな力になったか分かりません。馬が主人と一緒に年老いて無用な存在になっていく姿を見ながら、中高年の観客の方々はよく涙を流されます」
柳仁村と聞いてイメージされるものは非常に多い。『田園日記』、『歴史スペシャル』、数々の人気ドラマ…。それに中央(チュンアン)大学演劇学科の専任教授、環境運動連合の指導委員、グッドネーバーズの後援会長、山林庁の広報大使など、柳仁村がやっている仕事は本当に多い。
しかし、柳仁村自身の肩書きはあくまでも“演劇俳優”だ。テレビ番組や各種社会団体などでスター扱いされながらも、95年に「劇団ユ」を結成して俳優兼制作者として活発な活動を展開し、2000年には李海浪(イ・ヘラン)演劇賞を受賞した。
舞台の上で泣き叫んで走る彼の姿を見ていると、ともかく「本当に演技が上手い」という言葉しか浮かんでこない。はにかみながらメスウマと戯れる子馬の無邪気な表情、人間に認められて浮かれながら走る姿まで。
「稽古をしながら、ふとした瞬間に俳優たちをぱっと見回すと、皆が人間ではなく馬に見えたりする時があります。そんな瞬間に戦慄を感じますね。作品に深く、本当に深くのめりこんで演じたいですね」
問い合わせ(02)3444-0651。