社会劇は最も直説的に社会を反映する映画だ。『胸に芽生えた刃で悲しみを切って』(1992)で、除け者扱いされる疎外階層に注目したホン・ギソン監督(45)が、今回は非転向長期囚(韓国でスパイ罪などで摘発されたものの政治的転向を拒んできた長期囚)に視点を変えた。
ホン監督は転向を拒否して45年間の獄中生活を送った金ソンミョン氏を素材にした映画『選択』(10月24日公開)で、11年ぶりに忠武路(チュンムロ/韓国映画の中心地)に帰って来た。
-随分と空白期間が長かったようだが。
「1996年からこの映画を企画してきたが、シナリオはすべて完成しているにも関わらず、投資者が見付からなく心痛だったが、2000年の南北首脳会談以降にはクランクインした。『胸に…』以降、申京淑(シン・ギョンスク)の小説『離れ部屋』を原作にした映画など3本を準備したが、すべてがボツになったのでこのように期間が空いてしまった」
-『選択』が描く悲劇とは何か。
「多くの誘惑と苦痛に耐え、45年間、信念を守ったある青年の物語だ。『胸に…』で無力な疎外階層が韓国社会の縮図だとしたら、この映画は“刑務所の中の刑務所”の政治犯特別舍棟を通じて分断の悲劇を描いた」
-監督は金ソンミョン氏を「信念を守った青年」と思っているようだが、彼は韓国の体制を最後まで受け入れなかった犯罪者でもある。
「この映画で重要なのは、理念ではなく家族と生命だ。金ソンミョン氏や非転向囚を担当したオ・テシク班長は、すべて分断の被害者だ。オ・テシクという人物を論理立てて扱ったのもそのためだ。理念の善し悪しを選り分けようというのではなく、分断が作った悲劇を乗り越えようという思いで作った映画だ」
-1995年の光復節(日本植民地からの解放日)特赦で釈放され、金ソンミョン氏が「刑務所を変えるような気分」と語ったが。
「獄中だろうがそうでなかろうが違いがないという意味だ。実際に非転向長期囚は釈放されても社会への適応にてこずる。彼らが知る世の中は1950年代で止まっているのだから、すべてのものがぎこちない他ない」
-韓国の刑務所にこれ以上の非転向長期囚はいない。この映画が指摘したいことは何か。
「現在も残っている国家保安法だ。思想の自由に対して言いたかった。自由な討論が可能な社会でこそ発展することができる」
-金ソンミョン氏は自分の映画を観られなかったが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で上映される可能性はあるか。
「北朝鮮で好まれるような映画ではない。韓国社会についての話であるだけだ。金氏は『自分の話をそのまま上手く撮ってほしい』と話していたが、どんな反応を見せるか、知りたいのは確かだ」
-今後も社会劇を続けるのか。
「過去には私の趣向に合う映画ばかり撮ったが、後になって息苦しく感じた。これからは何かに縛られたくない。
この映画も作家主義の映画や芸術映画ではない」