巨漢が目の前に現われた。鋭い目つき、薄暗く翳った目の周り、一文字に結ばれた口。一昔前の軍談小説の挿し絵から飛び出したような年老いた将軍のようなこの男は、ただ座っているだけでも威圧感がある。
彼こそがまさに、43年間『女人天下』、『龍の涙』、『韓明澮』など、250本以上の時代劇を手がけてきた金在衡(キム・ジェヒョン/67)プロデューサーだ。来月6日にスタートするSBSテレビの大河ドラマ『王の女』の制作発表会で金プロデューサーは、力強く大きな声で豪語した。
「誰もがぱっと見て『あ、これは金在衡が作ったドラマだ』って思えるようにするつもりです。面白く、本当に面白く、そして強く。視聴率は50%台に挑戦してみます」
他の誰かがこんなことを言ったら笑い者になったかも知れないが、金プロデューサーは昨年、『女人天下』で視聴率48%という大記録を打ち立てた大物だ。金プロデューサーは「視聴率は私の人生の足かせだったが、視聴率では誰にも負けたことがない。また、ドラマは何よりも面白くなければならない」と語った。
全80回の放送が予定されている『王の女』は、登場する時代やストーリーが尋常でない。
このドラマは壬辰倭乱(文禄の役)直前の漢陽(ハニャン)に始まり、宣祖(ソンジョ/イム・ドンジン扮す)が難を逃れるために向かった北方の地を経て、父親の意志に逆らって兄と弟を押しのけて権力を握った光海君(クァンヘグン/チ・ソン扮す)が仁祖反正(光海君を追い出して仁祖が王位に就いた政変)で失権して絶望の淵に陥り、年老いたまま島流しの地 済州(チェジュ)で最後を迎えることまでを描く。
人物の解釈も破格だ。例えば宣祖は臣僚らの意見に押されて光海君を仕方なく王世子(国王の世継ぎ)にするが、間もなく「義兵を集めて来い」と死地へ送り出す。王として無能で、父親として非情で、人間としてずるい。
これに対して光海君は、頭脳明晰で情熱的、そして自分の欲望に対しても正直だ。光海君は外交力を発揮し、国乱を解決して政治改革を断行するが、反対勢力との紛争で死闘を展開、やがて暴君となる。
そして何よりも金プロデューサーは、この巨大な渦中に毒々しく官能的で情熱的な“王の女”であった、宮女の介屎(ケシ/朴ソニョン扮す)を登場させた。
彼女は貧しい身分に生まれ、まだ王世子も君主でもなかった時代の光海君と恋に落ちるが、宣祖の目に止まり、年老いた王の側室となる。彼女は光海君を一途に想う心を隠さず、光海君の寝室に自ら忍び込む。光海君のために宣祖を毒殺して権力の絶頂に登りつめるが、後に光海君と共に仁祖反正で処刑される。
『王の女』はもちろん面白いだろう。一歩間違えれば奈落の底に突き落とされる宮廷の根深い権力闘争と宮廷の女性たちの濃密な情炎を描くのは、金プロデューサーの得意とするところだからだ。ただ、このドラマが甲論乙駁を誘うのは目に見えている。
朝鮮の中宗(チュンジョン)の時代、妃嬪たちの暗闘を描いた前作の『女人天下』と同じで、今回も感の鋭い人は「光海君の統治下に起こった多くの事件の中で、親子が一人の宮女を巡ったという淫らな内容を選んで強調するのは明らかに商業的」と批判するかも知れない。
これについて金プロデューサーは「時代劇と事実は違う」と難しいことを言ったり、「テレビは本質的に商業的な媒体で、視聴率競争をせざるを得ない」と弱い姿を見せる代わりに、大声で笑った。
「私が描きたいのは“人間”ですよ、人間。そこには楽しさがないと。ドラマはやっぱりドラマだからね」
若くして演劇俳優としてデビューし、白髪の演出者となるまで現場を守ってきた大物は、この豪快な話を最後に、壬辰倭乱直前の腐敗した漢陽の地で刺客が欲深い官吏を殺害する初回の初場面を撮るために、急いでロケ現場のある民俗村へと向かった。