フラメンコを踊る韓方病院長 鄭京任さん

 フラメンコのゴッドファーザー、趙洸(チョ・グァン)さんが運営する個人スタジオ「チェルニ」は、地下特有のカビ臭さが薄っすらと漂う。

 30坪ほどあるフロアも静まり返っていた。片方の壁には鏡が、反対側の壁には激しくフラメンコを踊る写真が大きく飾られていた。

 小さいが堂々とした中年女性が息を切らして駆け込んできたのはその時だった。ソウル市・鴨鴎亭(アックジョン)洞で「チソン韓医院」を経営している鄭京任(チョン・ギョンイム)院長だ。

 「服を着替える」と言って部屋に入ると、フロアには赤や緑の原色をした照明が灯った。軽快で激情的でありながらも、不思議と心に訴えるフラメンコの音楽が“カビ臭い”スタジオを満たした。公演用の赤いワンピース姿で現われた鄭さんの頭には赤い花が飾られていた。

 鄭さんに「なぜ踊るのか」と質問すると「向いているから」という答えが返ってきた。流れる音楽に心身のすべてを任せると、戦慄すら感じられるという。高校生の頃からその感じが好きだったが、大学を卒業して結婚をし、子育てをしているうちに数十年間、忘れて過ごしていた。しかし、約10年前からその“パワー”が爆発したという。

 ワルツ、ルンバ、サルサ、タルチュム(仮面舞)に至るまで、ほぼすべてのダンスをマスターし、約3年前からはフラメンコに没頭している。

 鄭さんは「スペイン南部のアンダルシア地方で発達したフラメンコは、ボヘミアンの情緒が濃縮されたハイレベルなダンス」とし、「一見、足踏みをしながら拍手を打つダンスの動きが華麗で激情的に見えるが、一方で悲劇的な面もある」と語った。

 鄭さんはこの“パワー”を事業に活かした。肥満治療が専攻の鄭さんは、ダンスすることはランニングに匹敵する効果的なダイエット法だと確信し、患者にダンスの動作の一部を教えている。

 特にフラメンコは上体を大きくひねり、腹部に力を込めなければならず、手足の動きが早く、繊細で、腹部や太もも、足、足首のダイエットに効果的だと鄭さんは説明する。最近ではさまざまなダンスの動作を分析して組み合わせ、疾病別の「ダイエット体操」を考え出した。

 鄭さんは「8週間の肥満治療プログラムを受ければ、体重の約10%は十分に痩せられる」と主張した。

 鄭さんに、「ダンスを習い、また踊るとき、他人の視線が気にならないか」と聞いてみた。

 「自分で好きでやっているのだし、後ろめたいことでないので気にならない。夫も初めは反対していたが、今では積極的に応援してくれている」と、“撥ね付けるように”答えた。

 鄭さんは、「今まで誰かの視線を気にして、何かを躊躇ったことはない」とし、「十数年前、クラスメイトだった男子生徒とキャンパス公認のカップルとして付き合っていた時も、他人の目を意識したことはなかった」とした。

 今や“妻子持ち”となったその男子生徒は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の韓方主治医の申鉉大(シン・ヒョンデ/56)前慶熙(キョンヒ)大学韓方病院長だ。

 最近鄭さんは、毎週4日間、毎日2~3時間ずつ『チェルニー』でフラメンコを練習している。今年3月に国立劇場の舞台に立ってから“欲”が出て、来年3月の舞台では“ソロ”を踊りたいと申し出たためだ。

 誰かに言われてもないのに、毎週月、水、金曜の夜は、『チェルニー』でチョ・クァン先生と共に汗と情熱を注いでいる。本場フラメンコを習うために、先日はスペインのアンダルシア、セビリア、マドリード、グラナダなども訪問した。 

 「動作もそうだけど、彼らのスピリットを感じて見たかったから」と語った。

 鄭さんは「自由でありたい」と言った。「ダンスは自由だが、公演のための練習は拘束に過ぎない。だから毎週4日ずつ稽古場に行かねばならない自分が辛い」というのだ。だから、来年3月の公演が終われば、他人(観衆)ではなく自分自身のために踊りたい、という。

 「夫が定年退職すれば、韓医院などさっさと辞めて、映画で観たようなキャンピングカーに乗って、果てしなく広い大陸とそこで暮らす人々を感じてみたい」と“夢”を語る彼女の顔は、生気に満ち溢れていた。

イム・ホジュン記者
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