『吹け春の風』(9月5日公開)は極めて漫画的だ。性格の一部だけを強調し、厚みはないが鮮明な印象を与える登場人物、状況から笑いがにじみ出るのではなく、笑いのために状況が“奉仕”するような展開、想像通りの演出法まで、まるでギャグ漫画を見ているような思いにさせる。そのせいか、爆笑せずにはいられない場面が連続する。
携帯電話を使わずにポケベルを持ち、真冬にも暖房をつけずに重ね着し、ゴミはこっそり聖堂の前に捨てるほどの貧乏暮らしをしている小説家のソングク(金勝友(キム・スンウ)扮す)。
彼の部屋の上の階に明るいタバン(茶房/韓国の昔風の喫茶店。顧客を女性従業員が接待する)従業員のファジョン(金ジョンウン扮す)が引っ越してきたことで、静かな生活が一変する。
原稿の催促に疲れたソングクはファジョンの恋愛体験談をこっそり小説に書いて何人もの人をだまし、嘘がばれるのを恐れてもっと大きな嘘をついていく。
『ライターをつけろ』のチャン・ハンジュン監督はこの映画でも思う存分、手腕を発揮した。恋愛談にシフトしたが、ささやかな日常から笑いを引き出す力は相変わらず巧みだ。
ソングクとファソンは性別があべこべになっただけで、『美術館の隣の動物園』のチュニとチョルスそのものだ。スピーディーかつ軽やかノ状況を展開させるチャン監督の演出力が、全く違う映画を作りだした。
俳優は主役から脇役に至るまで、この映画の話法である誇張をうまくこなした。特に金ジョンウンは『家門の栄光』を上回る個人技を見せ、「コメディの女王」の実力を再び証明した。この映画は金ジョンウンの表情演技と瞬発力を追い風に、軽快なリズムを刻んでいく。
しかし、欲張りすぎて、蛇足とも思える部分もなくはない。たとえば突然飛び出す同性愛は概念性に欠け、ちぐはぐな印象を与える。劇中、こうした場面が随所に目立つのは、状況の笑いにこだわる余り、映画全体を振り返ることができなかったためだ。
ともすればそれは“最後まで待ってくれない”最近の観客を意識しすぎた監督の焦りのせいかもしれない。