念願の北朝鮮での『全国歌自慢』司会を務めた宋海さん

 23年間、全国津々浦々を回り、「全国歌自慢」の司会を務めてきた宋海(ソン・ヘ/76/本名:ソン・ボクヒ)さんが、11日に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌(ピョンヤン)・牡丹峰(モランボン)公園で開催されたKBS第1テレビの「全国歌自慢」光復節(日本の植民支配から解放された日)特集の収録を終え、12日の夜に帰国した。

 13日に記者会見を行った宋さんは「北朝鮮の人々の歌唱力はすばらしい」と語りだした。

 「事前協議を行った際に北側が『カーンと落選の鐘を鳴らせば、人民が恥ずかしがる』と言って反対したんです。すべてが平等な参加者なのに、なぜわざわざ恥をかかせるのかというのです。実際に現地へ行ってみると、20人の参加者全員が歌自慢の受賞者だったんです。木琴を持って行っても『カーン』という音は出せなかったでしょう」

 宋さんは北朝鮮の女性アナウンサー、チョン・ソンヒさんと共に司会を務めた。チョンさんが「平壌!」を、続いて宋さんが「歌自慢!」と叫んで番組は始まった。

 宋さんが自分よりも20センチ以上も背の高いチョンさんと並んで立ち、「美しい方と司会ができて幸せです。“南男北女”といいますが、南から美男子が来ました」と話すと、牡丹峰公園を埋めた3000人の観客が大爆笑したという。

 宋さんが台本にないアドリブで参加者の李チュンボン(77)さんに「お元気そうで何よりです」と話した時も、ほのぼのとした笑いに包まれた。マイクを向けられた李さんが、「(宋さんが)私より一歳年下だから弟ですな」と言ったからだ。

 「最初は台本にない言葉をなぜ話すのかと、舞台裏からしきりに注文していた北側のスタッフたちも、2時間の収録が終わる頃には私の話術が面白かったのか笑っていましたね」

 この日の参加者たちは『パンガプスムニダ』(嬉しいの意)、『平壌冷麺が一番さ』など、韓国の流行歌にあたる北朝鮮の「生活歌謡」を歌った。『涙で濡れた豆満江』など、韓国戦争以前に作曲された歌謡や民謡も歌われた。

 北朝鮮の会社員で構成された16人組のアマチュアバンドが伴奏を担当した。 宋さんは「アマチュアが歌う時は必ず伴奏もアマチュアなのが北朝鮮の放送の原則」と話した。

 ドラム、伽椰琴(カヤグム)、マンドリン、チャング(鼓)、アコーデオンなど、東洋と西洋の楽器で編成されたアマチュアバンドが、韓国独自の演歌のリズムを知るはずがない。

 北朝鮮のドラム奏者が韓国の歌手、宋大寛(ソン・テグァン)のヒット曲『四拍子』を伴奏した際、「ドラムをもっと強く叩いて」という宋大寛の手振りに、泣き顔になったこともあった。

 宋さんは5日から12日までの7泊8日間、北朝鮮に滞在した。「玉流館」の冷麺も食べた。「冷麺は普通だったが、キムチは本当においしかった」という。

 「化学調味料を一切使わず、みそ、しょうゆ、唐辛子みそだけで味付けしてありました。忘れていた昔の味が口の中に広がりました。本当に久しぶりに故郷の料理を味わった気分です」

 黄海(ファンフェ)道・載寧(チェリョン)出身の宋さんにとって「忘れていた昔の味」は「キムチ」以上のものだった。

 宋さんはかつて、あるインタビューで「海州(ヘジュ)の音楽学校在学中に(韓国)戦争が始まり、軍艦に乗って越南した。海水で米を炊き、名前を『海』に変えた」と話したことがある。国軍の下士官として3年8カ月、軍にも服務した。

 宋さんは「北朝鮮に残った両親や兄はもう亡くなっているでしょうが、生きているなら72歳になる妹にはぜひ会いたい」と語った。北朝鮮側の案内員がマンツーマンで同行し、車から降りられない時にも、道行く風景を注意深く見た。「もしかして妹がいるかもしれないと思い、白髪の女性を見ると胸がふるえた」という。

 収録後、共同司会者のチョン・ソンヒさんが会場を離れる際、宋さんは「ちょっと待って」と呼び止めた。チョンさんの故郷は黄海道・松禾(ソンファ)。載寧と極めて近い。

 宋さんは「できることなら実家の住所を書いたメモを渡して『家族が生きているかどうか調べてほしい』と頼みたかったが、案内員が見ていたため、ただ見つめることしかできなかった」と述べた。

 チョンさんは名残惜しそうな表情で宋さんを見つめ返し、手を固く握った。低い声で「おじさん、お元気で」と言ったそうだ。

 記者会見の間中、明るい表情だった宋さんはこのエピソードを話していて突然、涙を見せた。

 素早くハンカチを取り出して涙を拭い、すぐに明るい声で「私の夢は、これから元山(ウォンサン)にも、新義州(シンイジュ)にも、海州にも行って、また大騒ぎをすることです」と記者会見を結んだ。「平壌歌自慢」は15日午後7時30分から90分間放送される。

金スヘ記者
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