ぼさぼさ頭、焦点の合わない目線、だらりとした肩、つんつるてんのジャージ姿にのっそりと歩く姿…。
誰のことかって?あの鄭雨盛(チョン・ウソン/31)だ。女性ファンが卒倒しそうな容貌だ。『ビート』、『太陽はない』、『ユリョン』での青春スターのイメージはどこにも見当たらず、口を開けば癖の強い慶尚(キョンサン)道方言まで飛び出し、思わずめまいを覚えた。
鄭雨盛は『武士』以来2年ぶりに出演する映画『トンケ(雑種犬)』(16日公開)でチョルミンを演じるため、このような変身をして見せた。1994年、『KUMIHO/千年愛』でスクリーンデビューし、今年で俳優歴10年目。『トンケ』は10作目になる。しかし本人は、この驚きの変身を、大したこととは思ってないようだ。
「イメージが崩れた?真面目にチョルミンを演じただけです。これまで映画やCMでクールなイメージに見えたかもしれませんが、そのイメージに固執したことはありません」
鄭雨盛は『ビート』のミンや『太陽はない』のトチョルのようなキャラクターは、退屈で嫌だったと語る。『トンケ』のおかげでむしろ気が楽になったとうち明けた。
「これまで演じてきた役は、とても消極的で周りに流されてばかりいました。でもチョルミンは演じていて気持ちのいい奴です。俳優として、自分で状況を切り開く役を演じたかったのですが、今回それが実現しました」
郭[日景]澤(クァク・キョンテク)監督が演出した『トンケ』は、世間ずれしているが義理堅い、高校を中退したチョルミンが、周囲の人々とぶつかり合いながら成長していく話だ。近所からの「もらい乳」で育ち、「トンケ」と呼ばれるチョルミンは、警察官の父(金甲洙(キム・ガプス))と親子げんかをしながら父の愛を知る。
郭監督はシナリオを書く段階から鄭雨盛を念頭に置いてチョルミンのキャラクターを作り上げたというのは本当なのか。鄭雨盛は「何もせずにぶらぶらするのが好きで、しゃべるのが遅いところはそっくり」と答えた。
「チョルミンはぼうっとしていて、隙だらけだと思うでしょう?でも私はチョルミンがうらやましかった。正直で直情的な性格も、深い情で結ばれた父子関係も。撮影しながら『自分は本当に大きなものを失ったまま生きてきたんだな』と後悔したくらいです」
下着姿で留置場で格闘するシーンは撮影が4日間にも及び、かなり辛かったが、鄭雨盛をずっと苦しめたのは慶尚道方言だった。方言の台詞がうまく言えず、納得できないことが多かったそうだ。
監督の顔色をうかがいながら「自分で考えても納得できないのに、監督はどうしてOKしたのか?もしかしてもう諦められたのか」と悩んだこともあった。
「監督自ら録音した慶尚道方言の台詞入りテープが家に8本残っています。車で移動する時はそのテープを聴きながらたくさん練習したんですが…。後から知ったことですが、合間合間に引き伸ばす感じで言うのが慶尚道方言のコツのようです」
『トンケ』が公開される16日は初伏(夏至後の第三庚の日)だ。だが鄭雨盛は犬を飼ったことも、食べたこともない。
「映画に出演した雑種犬を初めて見た時は体も大きく、宿舎も一緒だったので気になりましたが、すぐに仲良くなりました。今その犬が心臓病で入院中なのが気がかり」と語った。
鄭雨盛は今後もテレビには出演しない方針だ。実は5年前から時代劇のシナリオを4~5本書き、監督デビューを目指している。「ヒットさせたいとは思わない」と言うので、その理由を聞いた。