ある在日韓国人が、生涯をかけて収集した数百億ウォン以上の美術品を、父の故郷にある美術館に寄贈する。
主人公は在日韓国人事業家の河正雄(ハ・ジョンウン/64/光州(クァンジュ)市立美術館名誉館長)さん。
河さんは今月21日、光州市立美術館に1182点に及ぶ美術品などを寄贈する予定だ。美術館の関係者は「正確な額を把握するのは難しいが、最低でも数百億ウォン以上の価値がある」と述べた。
「私の生涯を捧げたコレクションを光州に寄贈することは、若い頃から哲学にしてきた『社会に対する奉仕と寄与』を実践するためです。光州と韓国社会に寄贈、寄付文化を広める機会になればと思います」
河さんが美術品を寄贈するのは今回で三回目。1993年7月に212点の所蔵品を光州市立美術館に初めて寄贈し、99年にはピカソ、ルオー、ムンク、シャガール、ベン・シャーンなど、世界的な巨匠の作品を含む471点を同美術館に寄贈した。
「二回目の寄贈分までは、普段から趣味で集めていた美術品がほとんどでした」
しかし、今回寄贈された1182点はこの4年間、数十回にわたって“寄贈用”として収集してきた作品だ。
三回目の寄贈作品の中にはマリー・ローランサンなど海外の作家をはじめ、在日韓国人作家のチョ・ヤンギュ、文承根(ムン・スングン)、金石出(キム・ソクチュル)、韓国のファン・ヨンソン、朴プルトン、洪成潭(ホン・ソンダム)らの作品が含まれている。また伝説の舞踊家、崔承喜(チェ・スンヒ)の写真約150点もフィルムと共に寄贈される。
「当初、三回目の寄贈は予定していませんでした。二回目の寄贈後に、ある席で『(1、2回目を合わせて)1000点に達したい』と言ったのを、ある記者が『1000点をさらに寄贈する事にした』と報道したことを発端に、今回に至りました」
河さんは「当時の記事が誤報にならず、実現してうれしい」としながら、「特に私の寄贈に賛同してくれた約30人の作家が、無償、あるいは製作費だけで作品を提供してくれたことに大変感謝している」と語った。
全羅(チョルラ)南道・霊巌(ヨンアム)が故郷の貧しい在日韓国人労動者の長男として、1939年に大阪で生まれた河さんは、画家になる夢を諦めて事業家として成功した後、40年間にわたって在日韓国人の『痛恨の人生と歴史』をテーマに美術品を収集してきた。自身のコレクションに敢えてタイトルを付けるなら『祈り』が適当だと言う。
「強制徴用などで連れられてきた在日韓国人の犠牲と苦痛に接し、歴史の中で虐げられてきた名もない人々と社会的弱者を慰める『祈りの美術館』を建てたくて、作品を収拾するようになったと言っていいと思います」
そのため、河さんのコレクションには在日韓国人画家の作品が多い。河さんは在日韓国人作家、全和凰(チョン・ファファン)の『牡丹』を最も愛着の湧く作品に挙げた。
「韓日間の不幸な歴史の中で、日本人でも韓国人でもない在日韓国人として生まれ、日本で生きてきた私の心と精神が宿った作品です」
今月21日の3回目の寄贈式で、朝鮮(チョソン)大は河さんに国内では初めて名誉美術博士号を授与する予定だ。
河さんは「大学にも行けなかった私に、数年前から学位を授けたいと言うので何度も断ったが、『社会に貢献した人に名誉博士号を授与することで、他の人たちを励まそうという意図』との説明を聞き、承諾した」と語った。
「寄贈は金持ちだけがすることではありません。気持ちや労働・知識も寄贈できます。小さなものでも自分が持つ能力と才能を社会のために活用すればいいのです」
河さんは「私の人生は苦悩と苦痛の連続でしたが、公共の利益のために生きることは、決して損でも、人生の無駄でもないと自信を持って言えます」と結んだ。