薄緑色のリボンを頭につけた少女が、母親の手首を両手で握って導く。汗をかきながらずるずると引っ張られて行く母親も嫌ではない表情だ。
「両親の姓を一緒に使う運動」に参加する漫画家のチャンチャ・ヒョンシル(39)さんの漫画日記『お母さん、元気出してご飯食べよう』(ハンギョレ)の表紙の風景だ。直接作ったという親子の粘土人形が、今にも表紙から飛び出してきそうだ。
「漫画というジャンルが持つ愉快さがありますよね。障害児を持つ両親の暗さや重圧感を吹き飛ばすことができるのは漫画だと思ったんです。実は私はこの子が初めての子供なので、こんなに大変だとは思いませんでした。もちろんウネは、親を奴隷のように使う“悪い子供”ですけれども(笑)」
ダウン症の娘、ウネとヒョンシルさんは、13年間、共に暮してきた。「障害児を育てるパワフルなシングルマザー」として広く知られるようになったが、ヒョンシルさんは自分に付けられたそんなレッテルが負担だと言う。
「本当に子供から多くのことを学びます。同じような状況に置かれた親たちが“天罰”という抑圧感に悲嘆しているのを見ながら、もう少し明るい雰囲気を作って見たかったんです。後輩の母親たちの役に立てるかと思って、私とウネが経験する日々を漫画で描くようになったんです」
彼女の絵は明るい。楽しく描きたいという彼女の欲望は、キャラクターの細かい描写よりは、単純化された線を生み、漫画特有の省略と強調を適度に織り交ぜ、見る人を釘付けにする。
そして、何よりも一人で娘を育てながらも挫けず、ウネと一緒に入ったお風呂、怪談話をする時の楽しみ、親子で一緒に行った金鋼(クムガン)山旅行などのエピソードを親しい友人に話し掛けるように描き、正直で飾り気のない語り口は情に溢れている。
弘益(ホンイク)大学の東洋画学科を卒業したヒョンシルさんは、当初は紙粘土工芸やイラストレーションの仕事を主にやっていたという。単純に生活だけのためなら、その方がもっと条件がいいという。
「でも、与えられたことを作るだけだったんです。文章に合わせるとか、決まった素材に合わせたイメージを使わなければならない仕事だったんです。だから私の想像力でも、創作物でもないでしょう。漫画はストーリーから絵まで、すべて自分で作るので楽しいです。人とコミュニケーションしているという感じもあります」
54ページには、この本のタイトルを決定付けたエピソードが描かれている。
「常に締め切りに追われて忙しく(稼がなければならない)」、「子供の面倒を見るのに忙しくて(素晴らしい母親にならなくてはならない)」 、「ある日突然襲う虚しさ」に母親は悲しむ。
しかし、その度に、このすべての苦しさを吹き飛ばしてくれるのは娘だ。ウネが目の前でこう囁く。「お母さん、元気出してご飯食べよう」。彼女はこの言葉を聞いて、再び立ち上がる。