元特殊要員で国家から見捨てられテロリストになったカン・ギテク(朴尚民(パク・サンミン)扮す)が、地下鉄を占拠して人質を取る。カン・ギテクの凶弾で恋人を失った地下鉄機動隊所属のチャン・ドジュン(金錫勲(キム・ソックン)扮す)刑事は、自分に思いを寄せる女スリのソン・インギョン(ペ・ドゥナ扮す)の連絡を受けてやっとのことでこの列車に乗り込む。
列車は爆弾を積んだまま発電所に向かって時速140キロで走る。列車をストップさせなければ、大惨事になるのは目に見えていた。
『チューブ』(6月5日公開)は、韓国映画初の地下鉄を舞台にしたアクション映画だ。スケールが今までとは違う。地下鉄のセットだけに8億ウォン、総制作費に53億ウォンを投じた。今年2月に発生した大邱(テグ)地下鉄放火事件で、公開が3カ月ほど延期されるなど紆余曲折もあった。
しかし、『チューブ』には失望した。中途半端なCMのキャッチコピーのような台詞が横行し、メタル音楽のBGMは内容と一致せずに空回りする。線路に沿って力強く疾走するスクリーンの中の地下鉄とは違い、この映画を構成する要素の数々は、それぞれ感傷に浸りながら四方に散らばってしまっている。
目が回るほどスケールが大きく、激しい銃撃シーンで始まる映画の欠点はすぐにばれる。チャン・ドジュン、カン・ギテク、ソン・インギョンなどの主人公たちには「なぜ」という言葉が抜けている。テロリストの凶弾で失った恋人を刑事がどれだけ愛していたのか、カン・ギテクはなぜテロリストになったのか、スリがなぜ刑事に片思いをするようになったのか、などに対する説明が足りず、登場人物たちの格を自ら下げてしまっている。
手抜きで作られたドラマの上を1時間以上も走る列車の乗客たちは不安でばつが悪い。『シュリ』の助監督を務めたペク・ウンハク監督は、CM監督の限界をそのまま表している。ハリウッド映画『スピード』の設定を真似た『チューブ』には、早い場面転換と短く強烈な台詞が存在するのみで、人もいなければ話もない。
何を訴えたいのかが分からない音楽は過剰で、粗雑なストーリーを隠すことはできなかった。CMのキャッチコピーのような「生きることって、そんなに特別なのか。ロマンチックな思い出ひとつで充分だろう」といった台詞は、人の温もりがまったくなく、白けさせる。
しかし、朴尚民の悪役演技は、この映画が唯一誇れる点でもある。4年ぶりに映画出演した朴尚民は、目茶苦茶なストーリーの中でも力強いキャラクターを演じている。しらじらしいスリを演じたクォン・オジュンや林玄植(イム・ヒョンシク)、孫炳昊(ソン・ビョンホ)、キ・ジュボンなどの脇役たちも、自分の役割をしっかりと果たしている。
『チューブ』という映画は、むしろ主人公たちに厳しい試練を課した映画だ。金錫勲とペ・ドゥナは、ディテール不足のストーリーとキャラクターの外でもがいている。
金錫勲は平面的な表情と未熟な台詞処理の限界を何度も見せ、『フランダースの犬』、『復讐者に憐れみを』などの出演で演技派女優に浮上したペ・ドゥナも、映画の前半部でキャラクターに成り切れず、苦労する姿を見せている。