80年代。成功を夢見た田舍者のミンジェ(金旻鍾(キム・ミンジョン)扮す)は、純粋で涙もろい恋人のウンジ(金ジョウン扮す)を故郷に残して上京する。
しかし1年後に成功して帰るという約束とは裏腹に、ヤクザやナンパ師を点々としたミンジェは、5年後にソウルで軍隊の高位幹部、ホ大領(独孤英宰(ドッコ・ヨンジェ)扮す)の妾、ヘミとして奴隷同然に暮らしてきたウンジと再会する。
ウンジと一緒に逃げようとしたミンジェは、ホ大領によって三清(サムチョン)教育隊(80年代、全国の素行不良者、粗暴犯、反政府活動家などが、社会浄化の名目で強制的に配属された軍部隊)に入隊させられ、ヘミに好意を抱いていたファン大尉(李ジョンウォン扮す)の監視下に置かれる。
映画『蝶』(金ヒョンソン監督)の導入部分で、ヤクザの組長はミンジェに「あいつはいい奴だが、拳に情が多すぎる」と呟く。続いて会った仲間のナンパ師は「あいつはスタッフに優しすぎる」と心配する。
同じことが映画『蝶』にも言える。この映画のコメディやアクションはそれなりノ見ごたえがあるが、ストーリーは「情」に溢れすぎている。観客も耐えがたいほどに。
『蝶』は最近の韓国映画にしては珍しく、悠長な叙事構造を形成している。
戯画化された80年代を重量感いっぱいに描いている点も注目に値する。
しかし悲劇を導き出すために取闢・黷スキャラクターと事件の数々は、オーバーなくらいにドラマチックでリアリティーに欠ける。
「俺がタバコみたいな体に悪いことはやめろって言っただろ!」と、長い髪を掴んで皮のベルトでウンジを叩きつけ、「俺がお前を捨てるまでは、お前は絶対に逃げられない」と言いながらウンジにネックレスをつけるホ大領、ミンジェに「お願い。早く行って…」と叫んだと思ったら「私を許してくれる?」と泣きじゃくるウンジのキャラクターは、現代化された新派の典型を見せてくれるが、彼らが流すその涙は客席では流れることはない。
輪ゴムのように見える三清教育隊の鉄條網、21世紀の最新ファッションに身を包むウンジ(ヘミ)、臨場感のない雨や血などの小道具もあちこちで映画に入り込むのを妨害する。