「質問を受ける度に単語を集めて答えていますが、答えた後、『これじゃないな…』と、思ってしまいます」
2日(現地時間)、米カリフォルニア州バーバンクに位置するワーナーブラザーズ・スタジオ。『マトリックス・リローデッド(Matrix Reloaded)』試写会の2日目に会った主演のキアヌ・リーブス(38)は突然、このような話を持ち出した。
「フランスの哲学者 ミシェル・フーコーの表現を借りれば、正確に意味を伝えることのできる単語や表現がない限り、私は自分の口から吐いた文章を拒否する」と、親切に註釈までつけた。
キアヌは違って見えた。向かい合って座った相手を困惑させるほどに。『スピード』(1994)以降からスランプに陥っていた彼を、これほどまでに変化させたのは、間違いなくマトリックス・シリーズだった。
『マトリックス』(1999)と4年ぶりに完成した続編『マトリックス・リローデッド』で、キアヌは機械との戦争を終わらせる人間の救世主、ネオを演じる。しかし、この日のインタビューにジーンズ姿で現われたのはキアヌの体であるだけで、彼の精神は未だネオに留まっているように見えた。
「撮影は終わりましたが、夜眠ると、度々ネオになった夢を見ます。極めて哲学的なその映画が、私の実際の人生までもを変化させたというより、自然に世の中を見つめる目が深まチたと言えるでしょう。私自身、発展したのです」
マトリックス・シリーズを演出したウォシャウスキー兄弟は撮影に入る前、実際に彼に図書リストまで渡しながら、読書を要求した。キャリー=アン・モス(トリニティ)、ローレンス・フィッシュバーン(モーフィアス)など同僚俳優の話によれば、両監督と多くの会話を交わした俳優はキアヌだけだった。
ウォシャウスキー兄弟から渡された読書リスト中、キアヌを根こそぎ揺さぶった本は、ジャン・ボードリヤールの『シミュラークルとシミュレーション』。彼は「その本を読んで、イメージと象徴が現実を支配し得るということに衝撃を覚えた」とし、「ラリーとアンディー(ウォシャウスキー兄弟)はSF映画を通じて、『真実が時には惨いものだ』という点を示そうとした」と話した。
『マトリックス・リローデッド』のストーリーを成しているのはアクションだ。前編よりもスピード感溢れるアクションがスクリーン一杯に展開される。台詞は暗号のように少ない。
キアヌは『グリーン・デスティニー』のアクション監督、ユエン・ウーピンから厳しいアクション訓練を受けた。
「マトリックス続編の準備のため4カ月間受けた基礎訓練は、前編に比べ3倍はきつかったですね。クンフーとワイヤーを使ったアクションがさらに複雑になったのです。ラリーとアンディーは激闘過程の肉体的接触を、時には肯定的に、特には否定的に解釈しました。火が暖かいイメージと共に破壊的なイメージを与えるようにね」
ネオは今やウィルスのように自己複製するエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)と戦っても負けないほど、強くなった。しかし、このシーンはキアヌとヒューゴ、11人のスタントマンが行った激闘シーンを土台に、イメージデータを保存、編集して作り上げられたものだ。
実際の演技よりもコンピューター作業でほとんどのシーンを完成しているが、不満はないだろうか。
「まったくないですね。映画のおかげで、私の人生も逞しくなりました。特殊効果を多く使っても、俳優なら絶対に演じてみたくなる役なんです。こんなに特異な映画はなかったからね」
映画の中でネオは機械から人間を救い出す“彼(the One)”と特定される。しかし、「宿命が本当にあると思うか」と聞くと、キアヌは断固として「ノー」と答えた。
彼は「私の家で他人が主人のように振舞っているようなものだから、運命論的考え方が嫌いだ」という。自分が“彼”であるという予言にも関わらず、引き続き煩悩し、不安がるネオもやはり、キアヌにそっくりだ。
「映画のPRと関連したいかなる活動もしない」という契約まで結んでいるラリーとアンディーはどのような人物だろうか。キアヌから見たウォシャウスキー兄弟は、空気を吸うように本を読みあさる多読家だ。
「ラリーは哲学とワインが好きで、アンティーはSF小説とビールを好みますね。融通が利くのはアンディーの方だけど、2人とも天才だということには違いありません」
だから、『マトリックス・リローデッド』にはクンフーや銃撃戦、西部活劇、ワイヤーアクション、日本式アニメーション、ゲームなど、多様な見ものに、哲学まで盛り込まれている。
人間は機械の奴隷となり、仮想空間を現実と信じて生きている暗鬱な未来を描いたマトリックス・シリーズで、キアヌが発見するのは自由の意志の力だ。
「始まりと終わりがつながっている“メービウスの帯”を見て下さい。何の理由なく起こる事件などないのです。この映画は人間を無視したテクノロジーの発展がいかなる結果を招くのかに対する警告なのです」
インタビューが終わると、誰かがサインを頼みながら紙を差し出した。キアヌがペン取った。彼は左利きだった。