故・丁埰琫氏の『五歳庵』を脚色した娘のリテさん

 春雨が真夏のにわか雨のように降っていた先週末、大学路(テハンノ)で会った童話作家 チョン・リテ(25)さんはピンクのカーディガンにチェックのスカート姿で水色の傘をさしていた。まるで保育園の保母さんのような雰囲気だ。

 2年前、肝臓がんで死亡した童話作家 丁埰琫(チョン・チェボン)さんが「私の童話に登場する悪戯好きの主人公は、みんなリテだ」と口癖のように話していたその娘だ。

 おてんばな気質は未だ健在だった。雨の中で撮影していた写真記者が「満面の笑顔」を注文すると、「笑うとおばさんみたいになっちゃうんですよ」と、口を尖らせて見せる。「パパは亡くなられたのに、私1人でこんな苦労して…。インタビューって本当に嫌い」と子供のように呟き、周りから笑いが漏れた。

 リテさんは最近多忙だ。父の代表作『五歳庵(オセアム)』をアニメーション童話に脚色する仕事を受け持ったためだ。すでに制作を終え、公開を控えているが、アニメーションに合わせて再び構成する童話は、やっと校正刷が出たばかりで、猫の手も借りたいほど忙しいという。

 「当然、気に入りませんよ。パパの作品に勝手に手を付けちゃったんだから。悪いことをしたような気分です。本の表紙には私の顔写真まで入ってるし…恥ずかしいったらありゃしない。2度とこんな作業はやりたくないですね」。

 1週間前、アjメーションに作られた『五歳庵』を試写会で観たという。雪嶽(ソルアク)山の五歳庵に伝わる小坊主の説話を元に、キルソンという男の子が目の見えない姉と一緒に母を訪ねて旅に出る物語。

 20歳でこの世を去った母への作家の思いが、作品のあちこちに滲んでおり、客席はすすり泣き声でいっぱいになったが、リテさんは最後まで涙を飲み込んだという。

 「水原(スウォン)に住んだ時のことを一番よく覚えています。パパはセムト社の記者で、あまり有名でない時でした。花壇の上のよじ登り、幼稚園で習った歌や先生から教わった話をみんなに聞かせながら、1人でワンマンショーをやったらしいです」。

 「パパとママの夫婦けんかの様子まで真似て見せたら、パパは面白いといって拍手して笑ってました。そして、それを素材にして、夜通し原稿用紙と向かい合っていました」。

 1999年、東亜日報の新春文芸に童話『煙突から出た虹』で登壇したリテさんは、2年前、父が亡くなられてから2カ月後にセムト社に入社した。父の空席が大きく感じられたのは、“社会生活”を経験し始めたこの頃。

 インタビューの途中、突然記者に向かって「記事書くのって面白いですか?」と聞いては、「世の中のすべてのもの書きは、苦痛の中でも最もつまらなく、耐え難い苦痛ですよ」と大げさに言う。

 「パパは記事も書いて、童話も書いたんですよね。すごくありません?私は文章を1行読んだだけで、パパの作品かどうか分るんです。他の作家には見られない面白い表現が多いんですよ」。

 1行を書いては直し、またそれを直すことで、部屋中に原稿用紙が溢れていた父に比べれば、自分なんか怠けた作家だとも言えないほどひどいものだと“反省”するリテさん。

 「幼い頃、パパに勧めらた本は読まず、日記も誠実に書かなかったため、ほとんど毎日怒られた」と笑うリテさんは、父と自分だけの秘密を一つ、聞かせてくれた。

 「パパのことを好きな人たちがよく言いますよね。目が澄んでいて、笑う顔が子供のようだって。でも、それはパパの泣き顔を見てないからですよ。パパは本当に涙が多かったんです。童話を完成すると、一番先に私に朗読させたんですが、五歳庵を完成した時もそうでした」。

 「大きな声で読み上げていたら、キルソンが可哀相で声を詰まらせてしまったんです。それで、『なんでこうも悲しいの』とパパに文句を言おうとすると、パパはすでに両手で顔を隠して泣いていたんです。五歳庵の主人公は他でもない、パパでしたから」。

 肝臓がんで入院していた時、誕生日を迎えた父にしわ予防のアイクリームをプレゼントした、まだまだ子供のような娘。その娘がこの世をどう生きていくか、心配でならなかった父は、病床での最後の別れの時、「心から願うことはきと叶えられる。歯を食いしばって生きなさい」と言われたという。

 「童話は世の中ではなく、罪多き私を救ってくれた」と告白した作家 丁埰琫と、父が一生をかけて作り上げた童心の城を守るため、父の歩んだ道を歩み始めた娘。

 映画が終わった後、「原作 丁埰琫」という字幕が上がるのを見たら、涙が一筋流れ落ちたというリテさんは、映画が公開され、本の出版も終わる5月になれば、休暇をもらって、父の墓のある全羅(チョンラ)南道・順天(スンチョン)に行ってくる予定だ。

 行って、幼稚園児に戻ったように、父に言ってみるつもりだ。「パパ、空気が甘いね」。

金潤徳(キム・ヨンドク)記者
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