「自分の思う通りにできたものは一つもありません」。50年間一筋、高麗仏画の再現に携わってきた洋画家のカン・ロクサ氏(69)の言葉だ。
一カ月半かかる作業を終えて「上手く描いたものだ」という嘆声が自然に出ても、これは自分の作品に対してではない。自身が忠実に再現した原画を700~800年前に描いた高麗の画工に対する感嘆だ。
これまでコミカルで遊び心に溢れた洋画を披露してきたカン氏の龍仁(ヨンイン)にあるマンションは最近、仏画で溢れている。
カン氏は5年前から高麗仏画を収集し始めた。仏教信者のため、自然に仏画に惹かれたというが、カン氏は「消えていく高麗仏画があまりにも惜しく、また一般の人々が気軽に鑑賞することができないのが残念だった」としながら、「洋画で高麗仏画を再現しようと思った」と説明した。
現存する高麗仏画は約130点と推定されているが、国内には10点ほどが残っているだけで、約100点は日本、残りは米国やヨーロッパ等に散らばっているとカン氏は付け加えた。
カン氏が日本などで大型図版などの資料を収集、その中に登場する高麗仏画を油絵で100号のキャンバスに描いた28点の作品は、29日~5月4日、ソウルギャラリー(02-2000-9737)で展示される。
『水月観音』、『阿彌陀三尊』、『地蔵菩薩』など、カン氏の手による現代版高麗仏画は、華麗で繊細だBカン氏は図版をルーペで見なェらA糸の切れ端や点の一つまでそっくりそのまま描き出した。
一度、紙の上に下書きを丁寧に描き、複写紙を当て、これをキャンバスに移した後に何度も色を塗った。カン氏は中でも、高麗仏画の流麗な筆勢を活かすために最も細い油絵の筆を使い、毛を3~4本だけ残してカットして使ったという。
「髪の毛やクモの巣のように薄い絹の柄を描く時は、まるで編み物をしているようでした。最初から上手く描けないと、後で苦労するんですよ」。
例えば図版の中の仏画の一部分が長年の歳月で摩耗した状態である場合、絵の隅々を調べたり、他の絵を参考に模様や形の手掛かりを探し出し、これをパズルのように合わせていく。
友人らは「作家が創作もせずに、何のために人の絵を写すのか」とけんつくが、カン氏は「高麗仏画の数百年以上の埃を落す気持ちで、仏画誕生の瞬間を再現してみようと思った」と語った。
東国(トングク)大博物館長の張忠植(チャン・チュンシク)教授はカン氏の作品について「西洋の油絵で韓国の高麗仏画の精巧な筆勢を描き出した点に意味がある」と評した。
また「油絵と聞いて粗悪に仕上がっているのではと思ったが、直接作品を見ると色は多様ながらも、しっかりとしていて重厚だった」と付け加えた。
「お釈迦様の顔を描くのが一番難しかったです。慈悲の心が自然と出てこなければならないのに、高麗仏画をまったく同じように再現しようと欲張ってしまい、集中して描けば描くほど険しい表情になってしまうのがおちでした」。
カン氏は「高麗仏画には絵を描いた画工の自画像が滲んでいる」としながら、「作品を完成する頃には、いつも画工と顔を合わせていた」と語った。