郷愁を誘う映画『童僧』。
9歳の童僧、ドニョム(金テジン)は、山奥の庵に暮す。ちょっとそこまで行ってくると言い残した母親は二度と現れることはなかった。それから7年、ドニョムはすっかり大きくなっていた。幼くして息子を失い、たびたび庵を訪れる未亡人(金エリョン)は、ドニョムを養子にしたがるが、住職(オ・ヨンス)はドニョムの心に反してこれをきっぱりと断る。
『童僧』(11日公開)は物静かな映画だ。不安に駆られているかのように、言葉の羅列に忙しい最近の映画のような無駄口が少ない。映画を満たしているのは懐かしさだ。ドニョムは母親に会いたく、ジョンシム(金ミンギョ)は俗世間を忘れられない。
風に揺れるススキの穂、ドニョムと背比べをするカエデ、キキョウの花、引越の荷物を積んだトラック、本堂の片隅にあるウサギの皮…。ドニョムの目に焼きついている思い出の数々だ。
こうした小道具に感情を詰め込んで、言葉の代わりに表現している映画は本当に久しぶりだ。静かな庵に訪れる四季を鑑賞する楽しさまで与えてくれる。
映画は子供の目線で世の中を描いている。僧侶の日常や包茎手術のエピソードなど、地味だが観客の同感を誘う楽しさで一杯だ。
金テジンは心の傷を持ちながらも明るく純粋な童僧のイメージを演じきり、オ・ヨンスが演じる僧侶のキャラクターも映画をしっかりとリードしている。上海映画祭の脚本賞やシカゴ映画祭の観客賞を受賞しただけはある。
4年間の撮影期間を経て完成した『童僧』は、2002年にクランクアップしたが、上映館が見付からず、海外の映画祭を点々とする他なかった。「最近の映画らしくない」という点もその理由の一つだった。
チュ・ギョンジュン監督は懐かしさという普遍的な情緒を上手く描き出し、映画を観た観客が少しでも郷愁を誘われたなら、この映画は成功したことになる。しかし、その美しい郷愁が、呪縛ともなり得る。
住職がドニョムに「あの岩がお前の心の中にあるのか、外にあるのか」と問いかけるシーンがあるが、その答えをしなければならないのは、実はこの映画自体だ。心を込めた岩が大衆なのか、芸術なのか、背伸びしすぎたのではないのか。観客はいつも映画に軽くも重くもならないことを期待するものだ。